若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
155155
夜の支援活動は何が新しいのか
~制約を越えて新領域を開拓する~
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
日曜日、外から大きな掛け合いが聞こえてきます。3年ぶりに地域のお祭りが開催され、神輿を担ぐ子どもたちが前の通りを進んでいきました。ふと日常が戻っていくような空気を感じます。
2020年以降、私たちの最大の課題はオンラインへの適応でした。その話は何度も書いてきているので、その対極にある「対面を余儀なくされた支援」がどうなっているのか、ということを今日は書きたいと思います。
対面支援にこだわった短期集中プログラムも、一時期は支援そのものを中止せざるを得ない状況でしたが、規模を縮小して開催⋯など段階を経て平常運用まであと一歩に近づいています。実は対面でのつながりを求めない人が増えるのではと思って不安もありましたが、10人未満の応募に留まっていたにもかかわらず、直近では15名を超える人からの応募が集まっています。
社会が活力を取り戻すと同時に「社会的な孤立」をしていた若者も動き出しています。孤立とはいいますが、そんな連動性は彼らが完全な孤立無援ではないことを感じさせます。まだ私たちにとって、つながる余地があることを思い出させてくれるのです。
さて、そんな賑わいを取り戻してきた対面支援も、ただ元通りということではなく、次のステップを模索しなければならないようです。
オンライン支援の普及で、私たちの支援活動にある大きな制約が浮き彫りになりました。そのひとつは「場所」の縛りです。当たり前ですが、会って話をする以上は「来所」か「訪問」が必要になります。スマホやパソコンで相談できるようになり、東京にいながら地方の若者の問い合わせが対応できるようになったのは対面では成しえない成果でした。
そのほかにも動きがあったのは「時間」の概念でした。DXと考える方が良いかもしれません。これまで予約は主に電話で受けていましたが、これをWEBフォームから受け付けるようにしました。その結果、見えてきたのは、特に夜の時間帯に相談予約が入ることでした。開所時間外でも予約ができるようになったことで、若者が一歩踏み出す最初のきっかけが、いつでも好きなときに選べるようになったことは、多くのサービスがWEBで予約できるようになった現代では当たり前のことではあるけれど、大切な進歩でした。
対面支援はオンライン支援と比較すれば「時間」や「場所」という制約を抱えやすい側面があります。ただ、オンライン支援には「技術」「リテラシー」という別の障壁があります。デバイスを持っていない、通信環境が整わなければこちらも相談はできない⋯いずれも比較はしたとしても、相互に淘汰していくものではなくて、両存していくことが大切です。
とはいえ、オンライン支援の普及によって「夜の時間帯」に可能性があることは明らかになりました。これは対面の支援でも同じなのではないかと、時間的な制約を取り払う方法を模索する支援者が増えているように思います。全国的に開所時間を日中以外に広げていく動きがちらほらと出てきているように思います。
育て上げネットも週に1度、夜の時間帯に来所できるようになりました。半年ほど続けていますが、その勢いが衰える気配はありません。むしろさまざまな支援機関の方、民生委員の方も見学に来られていて、その興味・関心が集まっています。きっと「人と人との関わり」を求める声は日中だけでは解消されることはないのでしょう。
まだまだ油断ならないことは前置きしますが、対面支援への心理的なハードルが下がってきたいま、受け入れてきた制約と向き合っていく必要があるのかなと思います。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)