そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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4%の「働きたくても働けない」若者との
接点をどう作るか

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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11月も半ばとなると、年末を意識する時期になってきます。不思議とこの時期から相談利用が増えていく傾向があります。1年の終わりと始まりを感じやすい時期ですから、心機一転、がんばってみようと思われる方も多いのでしょう。

「思い立ったが吉日」「今日が人生でいちばん若い日」なんて言葉はよく聞きますが、人間そこまでうまくできていない。動き出すきっかけを外に求めてもいいのではないかと思うのです。「年明けからがんばろう」も立派な理由です。

ちなみに、夏場は相談に来る方は少なくなります。単純にあの猛暑のなか外に出たくない気持ちはだれもがそうであるし、行楽シーズンは自分と対比してしまって気が重いのかもしれません。社会的な孤立状態にあっても社会の流れは大切ですね。

そんな増えていく相談をみていくと、相談利用者の年齢が下がってきています。大学生や第2新卒くらいの方々がちらほら見受けられます。

データだけ見ると、就職活動が難しくなっている⋯という印象は薄く、今年10月1日時点で就職を希望する大学生の内定率は93.8%(「就職プロセス調査」就職みらい研究所・リクルート)となっています。例年通りでいけば来年3月には96%程度に到達することでしょう。

いままでの対象年齢はもう少し上の世代で、20代後半くらいの層がメインでした。それが大学在学中に私たちのような相談機関につながってくるようになってきています。理由のひとつは、私たちが門戸を開くようになってきたことがあります。社会課題の世界的にポピュラーなテーマには“Youth”が挙がります。若年層の無業化は日本だけでなく、海外でも課題になっていて、彼らの支援は日本にも流れ込んできています。

そうした資本は今までよりは自由度の高い支援が構築しやすい特徴があります。たとえば行政事業では、すでに別の社会資源につながっている方は支援対象とならない場合があります。全国に設置されている就労支援プログラムは、在学中では利用登録ができないとされています。

もちろん、それにも理由があるのですが、この数年で始まった事業は学生でもOK、働いていてもOKと支援対象像が非常に緩やかです。コロナ禍で課題が複雑になって所属があってもなくても「困っている人は困っているのだ」と、よりパーソナルなところをみるようになってきたこともあるのでしょう。

前述したように就職内定率が96%ということは、あと4%の方は働きたくても働けない状態で卒業していきます。本人が望む限り、社会との接点を失わないでほしいのですが、支援機関の存在すら知らないまま孤立していく方がいるのです。

学校にいるあいだは先生や友人とのつながりがあって、周りの手助けもしやすい状況です。ただ、卒業して孤立してしまうと、もういちど社会とつながってもらうには、本人が頑張って問い合わせをしてもらうしか方法がなくなってしまいます。

ならば、孤立する前につながりをつくってしまおうと、支援スタッフが学校のなかで活動できるようにカフェや相談会を設置してもらったケースもあります。学校との連携を強める独自の取り組みも重要ですが、そもそも支援プログラムが「在学・在勤OK」となっていれば進路の途切れによる孤立は予防しやすくなるでしょう。

新型コロナによって社会的に弱者となる方への支援の必要性が強く叫ばれ、国内外のさまざまな資本が流れてくるきっかけになりました。それと同時にあるべき支援の姿も再定義され、その解釈も拡がっているように感じています。

内閣府の調査で「15歳から24歳の約70%が支援プログラムを利用したいと思わない」(「子供・若者の意識に関する調査 (令和元年度)」内閣府)と回答しています。利用するのではなく、自然と移行していく、彼らが感じているハードルを下げていくことが急務です。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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