若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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「ひきこもり」の修飾語。
対象を絞る勇気を持つ
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
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世の中で孤立・孤独が大きなテーマになるにつれ、若者への目線も少しずつ大きくなってきている気がしています。たまたまなのか、そういう時期なのか、年末(年度末)に近づくと、講演会やセミナーの依頼が増えていきます。年間を通してご相談が多くなる時期でもあります。
ひとたびセミナーを開くぞとなると、集客のためのクリエイティブ(広報媒体)に、趣向を凝らしたキーワードがちりばめられます。クリエイターやライター、セミナーを設計する方の思いを乗せた言葉があふれていく時期でもあります。
毎年多いのは「ひきこもり」というテーマです。“孤立する若者”という意図が含まれた言葉のなかで最も普及しているキーワードなのでしょう。最近では、“氷河期世代”や“8050”も急上昇ワードです。
当たり前のことを書くようですが、チラシやWEBサイトでの広報活動には、それに触れた人に「やってほしいこと」があります。例えば、アイスクリームのテレビCMは買ってほしいから放送されていますよね。その商品が欲しい、(並列された競合よりも)これが食べたいと思わせるわけです。
そう考えると「ひきこもり」をテーマにしたセミナーというのは、実施者は何を目指しているのか⋯と考えると、大抵は「支援」につながって欲しい。そんな願望が見受けられます。
少し話はそれますが「ひきこもり」はあいまいな言葉です。広義/狭義、長期/短期、若い/中年/高齢⋯と多様な側面から修飾語をたくさんつけて、やっとある程度説明ができる言葉だと私は思っています。
そんなあいまいな「ひきこもり」というテーマで構成されたセミナーにおいて、集客がうまくいっていない、もっとたくさんの人に聞いてほしいと相談をいただきます。うまくいってないな⋯と感じるのは、抽象度の高いまま受け手がうまくキャッチできない情報になっているときです。そのセミナーでいう「ひきこもり」っていったいどんな人なのだろうか⋯と思うのです。
具体化するには修飾語をつけていくのが手段のひとつです。私がこうしたセミナーを実施するときに最初につけるのは「支援を受けられる(受けたい)」です。
困っているのだから支援を受けたらいいじゃないかというのは正論であって、だれもがそうシンプルな行動原理で動いているわけではなく、支援を受けなければ前に進めない自分、誰かに負担を被らせる自分を意識させられるのは決して楽しいことではないでしょう。「支援を受けられる(受けたい)」はすべての人にあてはまることではなく、対象を絞り込むものです。
最近、私はセミナーの準備をするとき「支援を受けられる(受けたい)」という修飾語を大切にしています。たったひとつのセミナーであらゆる「ひきこもり」を包括できませんし、前述したようにその方の状況と支援がリンクしない方にまで情報を届けようとするのは、自分たちにとってもかなり苦しい活動ではないでしょうか。
支援をする側にいると、自分たちの活動に理解が深いので「受けたほうが良いのに」「支援につながってさえくれれば」と、それありきの思考になってしまいがちです。私も反省することが多いので人に言えるような立場ではありませんが、実際には支援などなくても自立していく方はたくさんいますし、支援者でない何かが原動力になることだってたくさんあります。
これから講座やセミナー、特別な授業を検討されているみなさま、まずは修飾語を考えてみるのはいかがでしょうか。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)