若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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孤立・孤独にさせないために
コミュニティを見つける
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
2022年の記事もこれが最後です。年々加速していく時間感覚に驚きを隠せません。どれだけ感覚が早くなろうと実際に過ぎている時間は24時間×365日であって、結局はそのなかでどれだけのパフォーマンスが発揮できたのか、ということなのでしょう。
今年、私たちがやってきた活動のなかで最も注目度が高かったのは「コミュニティ」を作る支援であったと自負しています。育て上げネットとして自主的に始めた活動もありますし、自治体との連携で実現したものやコミュニティを作るための助成金を拡げる活動も展開できるようになりました。
具体的なところでは、一般的な支援サービスが閉所してしまう時間帯に居場所を提供する「夜のユースセンター」と呼んでいる事業があります。そのほか、フットサルなどのスポーツイベント、オンラインゲームを活用したe-sportsの企画などを展開しています。
最初に好意的な反応を示したのは同業の支援者の方々でした。いわゆる、業界内で話題というやつです。みんなが「こういう支援があればいいのに」と願っていたことの実践をご評価いただいたのだと思っています。実際、利用される方も多くて、反響も良いことから、本当にニーズがあったのだと理解しています。シンプルに挑戦してよかったなと思うことのひとつです。
コミュニティ支援をするに至った経緯は、いくつかの制限からでした。
例えば、ほとんどの就労支援サービスは「働く」がゴールになるのですが、そうなると「働く」ことを意識しなければなりません。仕事や会社勤めに具体的なイメージを持てない段階では、そうしたサービスはハードルが高くなります。コミュニティでの支援では「働く」ことが必ずしもゴールではないので、利用者のニーズは格段に広がりました。
ゴールが絞られないと、対象も拡大します。働いていたり、学生だと利用することができない制約を持つ支援サービスが、実は多くあります。そうして、そもそも支援対象から外されてしまうことで、私たちが出会えなくなる方がたくさんいたのです。
しかし当然ですが、働いている人のなかにも支援を必要とする人がいます。このコロナ禍に新卒で入社した会社ではテレワークが続いていて、会社の誰とも仲良くなれなかったという方は確かにこの社会で孤立・孤独を感じていますが、従来の支援サービスでは出会うことはなかったでしょう。
ぜひ、学校に関わる皆様に知ってほしいことがあります。12月も後半に入り、年が明けると「進路」の意識は日に日に高まっていくでしょう。それは私たち以上に感じておられることかと思います。
もし周りに不登校状態の方がいたり、進路が決まらず困っている方がいたら、一般的な就労支援機関をご紹介いただくことはもちろんですが、コミュニティにつなぐ意識をしていただきたい。それは必ずしも就労支援でなくて構いません。その方が興味を持てる社会であればどんなものでも良いと思います。所属を失って「誰ひとりつながりがない」という状態こそ避けるべきことだと考えています。
在学中に進路が決まるなら本人もそのほうが良いかもしれないですが、気が急いて数か月と経たずに会社や学校を離れる方もたくさん見てきました。本人のペースがあるので、まずは孤立させないために卒業後に行く場所づくりが進むと良いと思います。先につながっておくことで、所属を失わせないことを検討いただけると嬉しいです。所属を失ってしまうと、次を見つけるまでの間を支える人がいなくなってしまいます。
私たちが連携する都内の高校では、進学・就職以外に、支援機関とのつながりを進路として報告をしてくださる学校もあります。そうしてステップを作っていってもらえれば、若者の孤立・孤独は減らしていくことができるかもしれません。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)