若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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衣食住の成立が先。
就労支援が変容してきています
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
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2022年は「生活面の支援」が非常に充実した1年でありました。
マズローの欲求5段階説は、改めて説明するようなものでもないかもしれませんが、人間の欲求は順を追って満たされていくという構造がまとめられています。その正否はさておき、私たちが行う就労支援が目指しているゴールは段階でいえば上層で、社会的な所属や承認欲求、自己実現に至るには、身の安全やそもそも生死にかかわるような状況ではないことは前提条件なのです。
コロナ禍以降、私たちの団体のスタッフに限らず、多くの支援に関わる方々が口をそろえて言うのは、問題の顕在化でした。
もともと困りながらもギリギリで生活をしてきていた方が、大きなインパクトが起きたことが決定打となって自己解決が難しくなり、支援を利用せざるを得なくなったケースがたくさんあるのではないかというのです。
そうした状況で優先される支援は、今月分の食事や衣類のように、マズローの段階で言えば下層に当たる部分を立て直すこと。実際、2022年はそうした食料の配布や生活必需品の配布支援が加速、着実にリーチする方も増えている状況でした。
生命や安全に資する活動は、これまでも選択肢としてありながらも実行してきていませんでした。ただ、最近では就職先を探すサポートをするにしても、前提が整っていない、このまま進めるのは難しい方も散見されています。このまま、いきなり「では働き先を」と支援を切り出しても、今すべきこととはミスマッチが起きてしまうでしょう。
欲求段階ごとに必要な支援や内容は異なりますが、重要なのは、ひとりで抱えるには大きすぎる負担を強いられてしまうこともあるということです。行政にしても、民間にしても以前に比べると数多くの支援が増えてきました。生活困窮と言っても、リストラ、非正規雇用、ひとり親、孤立⋯とすべて状況が異なるなかでそれぞれの悩みに合わせた支援が立ち上がってきているのが現在です。
もちろん、すべての課題や悩みをカバーできるわけではありませんが、柔軟な支えの手が増えてきています。
文章にするのも、口にするのも行動する側からしたら軽く聞こえてしまうと思いますが、この時期だからこそ、ひとりで抱えず、まずは誰にでも良いのでいまの状況を伝えていただけると良いと思います。
まずは生命や安全な場を確保し、それから社会につながっていく。マズローの段階はかならずそうでなければならないということはありませんが、順を追ったほうがスムーズなことは多いです。
どなたでも構いませんので、まずはできるところから相談をしていただきたいと思います。仕事を探しているのにどうもうまくいかない方も、まずは今の暮らしを整えたり、安定した生活をつくることから始めてみるのもオススメです。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)