そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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69.7%が支援を
「利用したいと思わない」ときに
できること

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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どんな仕事でも、ステークホルダーの属性や社会的な状態は偏りがありますよね。若者支援に関われば、利用される方にはひきこもりや不登校を経験した方が多くなりますし、企業の方とのお付き合いもCSR(企業の社会的責任)担当の方が多くなります。ある程度は偏りが出て、ゴチャっと混ざっている状況というのはあまり多くありません。

育て上げネットでは昨年末「ブックバス」という企画を行いました。ブックバスは長野にある本屋さんが以前から行っている企画で、車内を改装して移動式の書店として全国を回っています。今回はブックバスを私たちの拠点がある東京・立川に来てもらって、イベントを開くことにしました。

ブックバスの書籍は通常は販売していますが、今回はすべて無料で持ち帰ることができるようにしました。約2,000冊の書籍 ー 絵本やコミック、小説に読み物とさまざまなジャンルがある ー は取り放題で、興味が湧いたものを好きなだけ自分のものにできます。クリスマスの時期でもあって、ちょっとしたプレゼント⋯の気持ちでいましたが、袋いっぱいに本を詰めて笑顔で帰っていく様子は配る側としても気持ちがいいものでした。

ありがたいことにメディアからの取材もありました。必ず聞かれたのは、若者支援の団体なのになぜこんなことをしているのかということでした。

本を配ることそのものはフレーム(外殻)で、外からみたときにそういう形に見えるというだけです。もともとやりたいことの本質は「本を配る」ことではなくて私たちのことを知っていただいたり、つながりをつくっていくことにあります。

例えば、今回は家族連れの方も、個人で来られた方も、たまたま前を歩いていた方もおられます。ほとんどの方は初めて私たちのような存在を認知してくれたことでしょう。

知られなければ存在していないのと同じ⋯とはよくマーケティングでも言われますが、支援者の存在を知らなければ相談する選択肢は絶対に生まれません。最初は本を配っている人たちと認識されるかもしれませんが、いずれ若者支援や就労支援というキーワードが広まっていけばいいなと思っています。

内閣府が令和元年に調査したデータでは、既存の公的・民間育成支援機関等を「利用したいと思わない」と69.7%の若者が答えています(「子供・若者の意識に関する調査 (令和元年度)」内閣府)。いわゆる支援という「見え方」が忌避剤になってしまうのであれば、少しでもとっつきやすく、情報を受け取りやすい形に変えていく必要があるでしょう。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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