そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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人手不足の会社と
就職活動で悩む若者の間を取り持つ仕事

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

就労支援のゴールのひとつに「働く」があるとすると、そこにはある支援の限界が存在します。本人が働きたいと考えていて、私たちもそろそろ自立できるなと考えていても、その方が100%希望して採用される先は、なかなかないということです。大抵は本人自身が就職活動を進めていく必要があります。

もちろん履歴書や職務経歴書を作るサポートはできますが、一緒に面接に出られるわけでもありませんから、社会へと近づいていくほど、私たちができることは減っていくのです。

本人たちからすると、経験の少ないことをやっているのにサポートの手が離れていくのですから、初めて補助輪なしで自転車に乗るような不安も強くなりがちです。就職して働くようになれば支援員がいるわけではないので、どこかで自立に向けて進んでいってもらう必要はあるのですが、やはり支援する立場である以上、まだできることがあるのではないかなと考えていました。

「ひきこもり」や「ニート」は言葉だけが定着しましたが、多くの方にとっては得体のしれない存在ではないでしょうか。現在もその存在はあいまいで、むしろ重大事件と紐づいて、できれば関わりたくないイメージを持っている方も少なくないのではと思います。

別の視点で社会をみると、深刻な人手不足の問題があります。名の通った企業では影響は少ないかもしれないですが、中小企業やその地域で活躍する会社では、そもそも「応募がない」なんて話はそこかしこから聞こえてきます。

働きたいけど働けない若者、そして、人手不足で困る企業。そのふたつの間を取り持つことできれば、若者はもっと社会につながりやすくなるのではと、私たちは地域で採用に困っている企業に声掛けをはじめたのです。

コンタクトをとってみて思うのは、残念なことに「ひきこもりなんてウチでは雇えないよ」と門前払いする企業は実際にあったということです。人手不足であったとしても、本人に会うことすらなく戦力換算できないと判断する企業はそれなりにあります。そうしたなかで「もう少し詳しく聞かせてください」と前向きに検討してくださる会社もあります。実際に会社を訪問して職場の雰囲気をみさせてもらい、採用担当者とコミュニケーションをとり、必要なら職場見学や仕事体験もお願いしています。

そんな過程を通じて「ここは(若者にとっても)良い会社だ」と判断できたら、若者たちに「応募してみない?」と声をかけるのです。

支援する側にいる私たちができることはなんだろうかと模索したとき、ひとつの解は「本人ではなく企業を味方にしていく」ことでした。企業と若者との間に、支援者がハブとなって関われるようになったことで、ゴール間際でもできることはだいぶ広がっていきました。

私が想像もしていなかったのは、若者から「さんが紹介してくれた会社だったら、安心できます」と声が届いたことです。なるほど確かに、私たちが電話しても断られることがありますから、ずいぶんと前提が変わっていますよね。

若者が自立していくためのラストスパートに、私たちができることは決して多くありません。でも、ただ手を放すのではなくて、次に手をつなぐ人をみつけることはできるのかもしれません。

少子化が進み、みんながスマホから情報を仕入れる時代に、若者との接点をどうしたら作れるかと悩んでいるのは、どうやら若者を支える私たちだけではないようです。

支援団体だけが頑張っても、若者は社会につながれない。社会のなかにある企業だけで頑張っても、若者と出会うのは大変になる。相互に力を合わせていくことで、それぞれの望むものが叶っていくように協力し合っていきたいものですね。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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