そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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AIが確かな答えをくれる時代に
支援者ができること

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

これを書いているのは2月末。テレビやSNSではChatGPTの衝撃が報じられています。質問や指示をすると反応してくれるAIで、全世界でユーザーはすでに1億人を超えているとのこと。

こちらからの問いに答えるAIは今までもありましたが、ChatGPTの応用範囲はすごいですね。ちょっとしたストーリーや、対話形式の文章をつくることができるし、表計算や指示書に沿った作業もしてくれます。「こんなことを書こうと思っている」と文章をまとめれば大体整理してくれるので、ネタはあるけど筆がのらない⋯なんてときにはとても便利です。

ちなみに「ChatGPTが普及すると社会はどう変わりますか?」とたずねてみると、こうした返事がありました。

ChatGPTが普及することで、私たちの社会はさらに情報化され、コミュニケーションの手段が多様化することが予想されます。これにより、人々はより簡単かつ効果的にコミュニケーションを取ることができ、また、異なる国や文化ともコミュニケーションを取ることができるようになるかもしれません。

一方で、ChatGPTが進化するにつれ、人工知能が人間の仕事を取って代わる可能性もあります。このため、私たちは新しい職業の創造や教育の改革など、対応策を検討する必要があるでしょう。

また、倫理的な問題やプライバシーの問題なども浮き彫りになることがあり、これに対処するための適切な規制や倫理規範が必要になるかもしれません。総じて、ChatGPTは私たちの社会に大きな変革をもたらす可能性があるため、適切に活用することが求められます。

読んでみていかがですか。少し説明っぽいというか、飄々とした印象も受けますが、丁寧なまとめだと思いませんか?

そもそもこれだけまっとうな日本語で返事があることも驚きです。あれこれ質問しては「すごいなぁ⋯」と感心していたとき、ふと思いました。「もしかして、私程度の人間が書くものは淘汰されるのでは?」と。

本業ではないとはいえ、“書く”ことに多少のアイデンティティを持っている私は、世間でしばしば話題に挙がる「仕事を奪われる」という不安がよぎったのです。

素直に本人に聞いてみることにしました。「ChatGPTに仕事を奪われそうなんだけど、どうしたら良い?」と。すると、あっさりと返事が返ってきます。

あなたが書いているコラムには、あなた自身が持っている独自の考え方や経験、感性などが反映されていることが大切です。また、あなたが書くことで得られる、文章を通じた自己表現や自己成長のプロセスも大切です。

ChatGPTが自動生成した文章があなたのコラムに代わることはありません。あなた自身が持つ独自の視点や表現力を活かし、自分自身のコラムに取り組むことが、あなたが自己成長するためにも重要だと思います。ChatGPTが提供する文章生成技術を、あなた自身のスキルアップのために活用することもできます。

たとえば、ChatGPTが提供する文章を参考にしながら、あなた自身がアレンジや加筆することで、より独自のコラムを作り出すことができるかもしれません。最終的には、あなた自身が持つ独自の表現力やアイデアを活かし、自分自身のコラムに情熱を注ぎ続けることが大切だと思います。(一部抜粋)

はい、そうです、私が頑張ればいいのです。ぐうの音も出ません。ただ私は知っています。正論は必ずしも人の心には響かないということを——。

私が質問をしたとき「本当の悩みは別のことっぽいな」とか「大丈夫だよって言ってほしいだけだな」とか予測はせず、文面通り受け取った返事をするうちは、自然な対話をするにはもう少し時間がかかるかもしれません。

ただ、これもスマートウォッチで私の心身状態を観測したり、PCのカメラから表情をうかがったりすることで、推察しながら返事をするようになったら⋯と思うと、それほど先のことではないような気もしています。質問に質問で返すようになってきたら、いよいよ世界は変わっていくのでしょう。

例えば、ひきこもり状態にある若者には、話し相手が不在であることや、行動するより思考が勝ってアクションを取りづらい状況にある方もいます。自分の悩みを誰かに相談するなんて⋯と億劫になっている方も多いですから、誰の迷惑にもならないAIとの会話が支援の場を塗り替えていくかもしれません。

ChatGPTに「どうしたら脱ひきこもりできる?」と聞いたときの返答が、寄り添うひと言から口火を切るようになったとき、私たち支援者はどんな存在となっていくのか、私も見届けたいと思います。

蛇足ですが、ここまで書く間に「彼」という代名詞を打ち込んでは消した私がいます。私のなかでは「ちょっと融通がきかないけど、なんでも答えてくれるスゴイやつ」という人格を持った彼ことChatGPTとの付き合いは長くなりそうです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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