そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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若者支援者に求められる
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認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
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私が若者支援に関わるようになった2014年当時に比べると、業界に流れている空気はずいぶんとゆったりとしています。支援団体が減ったとか、流れてくる資本が少ないということではないです。肌感覚でいえば、余白が増えたというか、自由度が増したのではないかという話です。

若者を支える事業は官民いずれも展開されています。私たちは民間の立場で自主事業も行っていますし、行政から事業を委託されることもあります。

自由度が増してきたと感じるのは、雇われるための支援である「就職支援」から、個人に寄り添って働き方や雇用のされ方を考える「就労支援」にトレンドが移り変わってきているように感じているからでしょう。

「就職」の支援がなくなるわけではありません。いまもなおメインストリームは就職するための支援であって、大半の人がそのゴールを目指していることも変わっていないでしょう。

大切なのは「就職」は「就労」のなかのひとつの選択肢であって、それだけでないと視座をひとつ段階を上げたことにあります。

具体的なところにもその変化は現れていて、KPI(Key Performance Indicator/重要業績評価指標)から「週〇〇時間以上」のような就労時間の下限設定が緩和されてきました。支援期間の目安があった事業では、その文章ごと無くなったこともあります。

KPIが緩くなると、それぞれの支援拠点で受けられる若者も広がります。支援者は「この人は〇〇カ月以内に働くようになるだろうか」と妙な見立てをする必要がなくなるので、最近よく言われる「途切れの無い支援」や「断らない支援」が実現しやすい環境は整いつつあります。「若者支援にはよりよい実行環境になってきた!」といえるでしょう。次は当事者の多種多様なニーズに支援者側がどこまで対応できるか、応用力にテーマが移っていきます。

最近いろいろな場所で「リスキリング」が言われていますが、働く先を一緒に考える私たちも、そのバリエーションを常に広げていかなければなりません。

直近で言えば、ChatGPTをはじめとするAIの目覚ましい発展で、プロンプトエンジニアという職種が注目されるようになりました。アバウトに書けば、自分でプログラミングコードを書くのではなく、AIに指示をだして技術開発をする仕事です。

私もいまだ半信半疑ですが、今後、多くの仕事は様変わりしていくでしょう。今はパソコンやタブレットがない職場など考えられませんが、近い将来、AI技術を導入しない職場などありえない時代がくるかもしれません。

昔、3Kと呼ばれていた職種は業界あげての改善の取り組みや企業努力を続けています。でも、そうした変化に目を向けないで、古い情報のまま若者に説明がされている⋯なんてことはそこかしこで起きています。

若者支援者に大切なことのひとつとして、「頼れる存在」はキーワードに入るでしょう。若者にとって優しい、受け入れやすい支援環境が整いつつあるいま、支援者として従事する私たちも柔軟に、時代に合わせた変化をする努力が強く求められています。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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