そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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孤立させないために
誰もができることを考える

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

5月にクラウドファンディングを立ち上げました。法人が取り扱うお金の種類のなかでも「寄付」は公益系の団体特有で、なじみがないかもしれません。

日本で寄付をする人の割合は45%前後です。つまり半数以上の方は「寄付」と関わることはない日々を送っているのでしょう。

私にとっての寄付の解釈をお伝えしますと、それは「誰かの肩代わり」です。「したいけどできない」や「△△が不足している」というときに第三者が代わりに負担する行為が、寄付の役割だと思っています(もちろん、一概にそうだとは言えない部分もあります)。

第三者であることが重要です。たとえば子どもの進学のための学費を親が出しても、父母の医療費を息子が払ってもそれは寄付とは言いませんよね。ある程度、距離が離れた間柄であることもひとつの要素です。

さまざまな肩代わりがあるなかで、5月に始めたのは「居場所」の利用費の肩代わりでした。若者が家ではなくて、私たちの運営する支援機関に来て時間を過ごすことができるようにしたいのですが、これにかかる費用を若者の代わりに肩代わりしていただくものです。

これまで、このコラムを読んでくださっている方は「『ひきこもり』の支援をしているのだろう。ひきこもりというくらいだから、家から出たくないのではないか?」と思われるかもしれません。支援機関の利用というのは、かなりネガティブな印象から始まるのですが、実際に会話をしていくとそのイメージは塗り替えられていきます。親に言われて来た方が、数か月後には「家に帰りたくない」というようになる⋯そんなことが非常に多いのです。

「ひきこもりであるが、帰りたくない」は矛盾しています。けれど、それが彼らの実態をよく表しているのです。そもそも若者はひきこもりたいとは言っていません。学校に行けなくなった、会社を辞めた、親の介護で手が離せない──。そうせざるを得ない状態に陥っていた方が多いのです。

他者との関わり方がわからない⋯と、不安な人こそいますが、根本から関わりたくないという方は稀です。毎日飲みまわるようなつながりは求めていないけど、週1回くらい会って雑談するくらいの関係は望んでいる、そんな印象があります。

だから利用を重ねると抵抗が薄れ、家よりも居心地の良い場所ができる。そうすると、前述したような感情が生まれてきます。家がつらい場所になるわけではありませんが、帰ってひとりになると孤立感を覚えたり、周りと比較して自己嫌悪におちいってしまうのがイヤなのだというのです。

あるとき、若者が「これはどこからお金が出ているのか?」と聞いてきました。寄付について伝えると「こんな僕を応援してくれる人がいるんですか!」と意外そうな表情が返ってきました。

「寄付」が単なる肩代わりでなく、それによってひとりの若者が自分の存在価値を見出すきっかけになることに、私も最近気づいてきました。

人と人とのつながりは不思議なものですね。「社会的孤立」という問題と向き合うなかで、支援はさまざまなスキルや経験、学びが必要であって簡単なものではないのですが、孤立からの解放には小難しいことは不要なのかもしれない。たったひとつの行いが誰かにつながっていく。そんな気づきがある日々です。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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