そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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若者は「悩んでいる」のか?
言葉を再考する必要性

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

私は広報という立場にあってチラシやホームページといった、サービス利用の入口の部分を担わせていただくのですが、非常に悩ましいのはその言葉選びです。

ある支援サービスでは「あなたの悩みを聞かせてください」というシンプルな言葉を選んで、目につきやすい大きなサイズで書いていたところ、支援員からコメントをもらいました。

「大抵の方は、“自分は悩んでない”っていうんです。」

あくまでキャッチコピーはそのサービスを利用する当事者に響く言葉が何か考え、丁寧に届けなければなりません。ただ、得てしてこういうことが起きます。

悩みを聞かせてほしいのは支援者の願望であって、若者自身の願望ではなかったのです。気を付けないとこういうことが起こります。良かれと思って書いているのが余計に問題です。だって私は“若者が悩んでる”と決めつけていたのですから。

私たちは「ひきこもり」や「不登校」という言葉を、本人たちの状態を表現するときに使いながら、その一方で社会課題として伝えるときにも同じように使います。ただ、必ずしもひきこもりの方が「自分はひきこもりだ」と思っているわけではないし、不登校だって、そもそも行く選択肢がなければ、自分からそのカテゴリに当てはめようとする人はあまりいません。

最近、いろいろな場所で支援に携わる人から「支援という言葉を使いたくないんだけど⋯」と聞き、自分のやっている仕事の言葉を探しているように感じます。支援という言葉に内包されている上下の関係性や弱者救済のニュアンスを避けたいと考えているのですが、これに合う汎用的な表現はまだ見つかっていません。

私たちの活動は行政事業としての側面が強いこともあります。税金を活用して実施する以上はそれに相当する説明が必要になり、事業名には「ひきこもり支援」や「不登校・中途退学対策」のようなキーワードが並びます。苦しいのは、それがそのまま事業名となって「ひきこもり支援ステーション」のようになっていくことです。

私たちが認識している呼び名が当人にとって当てはまらないとそもそもマッチングしませんし、仮にマッチングしても社会課題として扱われるような名称がついた場所に入っていくのって、気が引けないでしょうか。

これだけ転職に理解がある時代になっても、個人的にはハローワークに行くとき「誰かに見られたら嫌だな」と少し思います。我ながら自意識過剰だなとも思いますが、知り合いに見られて、なにかあったのかなと勘繰られるのがストレスだからです。

孤立感のある若者と関わりを持ちたいと思う私たちにとって、言葉選びはこれからますます重要になってくるのではないかと考えています。いまあるものを一つひとつ「本当にこれで良いのだろうか?」と疑うのは大変なのですが、それでひとりでも出会える機会が増えるなら嬉しいですね。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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