そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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アイドリングの支援で
孤立を生まない仕組みを作る

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

土曜の18~21時の夜の時間帯に、私たちの活動拠点を開放する「夜のユースセンター」という活動をしています。30~40人ほどの方々が参加していて、参加者の属性は非常に幅広く、高校生の方から、以前私たちの支援を受けていた40代を超えている方までいます。

彼らのニーズは多岐にわたっていますが、発言として表現されるのは「家にいたくない」とか、「誰かと会いたい、話をしたい」といったものです。長い間コロナ禍におかれ、関係性が薄れてしまったことに対する反動とも言えるかもしれません。この活動は世間の関心も高く、メディアや支援者など、毎週、誰かしらが見学・視察に来ていて「この活動、大事ですよね」と関心を示してくれます。ありがたいことです。

これは私個人の感覚ですが「夜の時間帯まで提供時間を拡張したらもっと若者とつながれる」という期待は、若者の教育・支援に携わる人に共感されやすいものだと思います。

若者とのつながりが求められる人にとっては期待値が高い活動ではないでしょうか。そんな期待値はあるものの、みなさん自身を振り返るとどうでしょうか?「家にいたくない」と思ったことはありますか?

正直、私自身はあまり経験がありません。親と兄のマンガコレクションの恩恵を受けていたせいもあって、家はむしろ好きな場所の部類です。思春期の頃に自立感情の芽生えからそうしたこともあったでしょうが、それは家というよりはもっとピンポイントでリビングにいたくないとか、親に小言を言われたくないとかそういう意味でした。

彼らのいう「家にいたくない」に含まれている成分。家という場所が精神衛生に良くないとか、近づきたくないであって、私が使うそれとは異なる感情が言葉の節々から感じられます。

そんなに嫌なら家から出ればいいのに⋯とはいきません。学生であれば、まずは卒業という短期目標をクリアして⋯と順序がありますから、想定される支援期間は最終学年でも1年、そこから先も考えれば数年かかるかもしれません。

これは若者支援においては長期支援にあたります。ある公共事業では「およそ6か月程度」と支援期間の目安を示された事業もありましたが、上限以上の時間を想定しておかなければなりません。

間接的に10年ほど若者支援を観測している私は、総じて支援をしている時間が延びている、そんな印象を受けています。それは支援の品質が落ちているという意味ではありません。早期支援の意識が高まってきたことに加えて、SDGsでもよく言われる「誰一人取り残さない」が概念として強くなってきているからでしょう。

以前は、在学中は学校のなかで支援をするのが主流で、むしろ外のリソースを頼りにくい環境にありました。公的機関では在学中には利用できない制度になっているものも少なからずあります。

「夜のユースセンター」は在学・在勤関係なく利用できるのがひとつの利点です。学生の支援において「卒業」は孤立しやすい注意すべきタイミングです。孤立を予防するには、進路(ないし行く場所)があることが重要で、その意味で卒業後も利用できる場があることが重要です。

これまでの長期支援はどちらかというと、年齢層が高かったり、孤立期間が長くなって社会に対する不安が強い場合などに当てはまるものでしたが、現在の長期化はアイドリングの期間が延びて、前倒しで動き始めているという印象を受けます。

「家にいたくない」という彼らの声が生んだ活動が、結果的に私たち若者支援において難しい支援とされる、アウトリーチの好例を作りつつあります。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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