そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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メディア対応から
個人の意志の捉え方を見直す

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

私は広報という立場で仕事をしています。文字を書くのも好きですし、映画好きが幸いして最近は動画編集も楽しくやれています。ただ、そんな仕事のなかにある好きでないもの。写真や動画に映る若者にぼかしをいれる作業があります。

個人の特定を避けるための配慮を目的としたぼかしなので当然必要で、好き嫌いでやる仕事ではないのですが、彼らの自尊心はこれで守られるのだろうか? と疑問があるのです。

というのも、最近2つのできごとがありました。ひとつは大きなメディアのテレビ取材がはいったことです。通常、大きなメディアに対しては、かなり注意して対応しています。観ている人が多い分、いやなことも比例して増えるからです。

最近は放送に合わせてSNSで投稿したり、そもそもチャット機能がついていたりと視聴者と配信側の双方向性が高まっていて、責任を取ることのない人から無責任な発言が簡単に発せられます。コンプライアンスの意識が急速に高まる現状で、大手メディアを警戒するのは、メディア自体ではなくこの双方向性側にあります。

そんななかでインタビューに対応してくれたある若者に「顔出ししないで、首から下だけとか、背中越しでも大丈夫」と伝えたところ意外な答えが返ってきました。

「顔を出さないほうが変に映ってしまいませんか?」

単に個人情報を見せないようにする意図でかけた言葉だったのですが、その方にとっては社会的にネガティブにみられがちなひきこもりやニートを「隠したい」というふうに解釈したのかもしれません。

実際、私の発言にその意図がないかというと嘘になります。顔が映ることで、無責任な言葉がより強くなる、パーソナルに向いた発言が増える、そうしてダメージを受けてしまわないかと心配だからです。

若者たちのなかには、強い意志をもって「何も知らないのにひどいことを言う人たちがいる」という前提で話してくれる方がいます。結果的にこの方は、仮名でマスクをつけることで、ぼかしを入れずに放送することになりました。

これはあくまで私個人のことですが、やはりぼかしを入れないで良いというのは気持ちが楽になります。彼らは社会的にメディアに映せないような悪事をはたらいたわけでもなく、放送コードにひっかかるような言動をするわけでもないのに、本人たちですら、そう捉えかねない映り方をさせてしまうことには違和感が強くあるのです。

もうひとつの観点は、メディアがプライバシー保護を目的としたぼかしをするようになってきたこと。タレントが街を探訪するような番組では、背景に移る一般の方にぼかしが入るようになりました。むしろ今までなぜその配慮がなされていなかったのか不思議に思っていたのですが、個人を守るという意識が日を追って強くなっていくように感じています。

ぼかしが入っていることが当たり前になっていくことで、取材に答えた若者のぼかしが当たり前となっていくこと、そして、強い意志のもとで自分の言葉を伝えたいと願う若者にその機会を作れるようになっていくのではないかと期待しています。

個人の考えが尊重されていく時代に、私たちを取り巻く自己表現のリテラシーに変化が生まれてきていくのでしょうか。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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