そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

173

173
「ひきこもり」定義見直しに
思うこと

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

毎月書いているこのコラムにはテーマのような指定がないので、「今月はどうしたものかな」と考えるところから始まります。「今月はこれで書こうかな」と頭の片隅においていたことをスルッとどこかに忘れてきてしまって、Wordを開いて10分は、記憶を取り戻すところから始まります。

クリッピングしていたニュース記事を見返していたところこんな記事がありました。

ひきこもりの定義見直しを 「6カ月」短縮、自民議連(共同通信)

自民党のひきこもり支援推進議員連盟(会長・下村博文衆院議員)は7日、「原則的に6カ月以上、家庭にとどまり続けている状態」としているひきこもりの定義の見直しを加藤勝信厚生労働相に提言した。(略)
マニュアルは24年度中に策定し、ガイドラインの代わりに自治体の相談窓口などで活用してもらう。新たな定義を反映させることも検討する。

「ひきこもり」定義の見直しということで、私たち支援団体としては注目せざるを得ません。

そもそも現在の定義がどうなっているか⋯というと、これも必ずしも共通で使われているものはないのですが、厚生労働省のガイドラインにあるものが一般的です。そこでは「社会的参加(就学、就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6か月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態を指す現象概念」とされています。

今回の提言ではこの「6か月以上」という時間設定にメスを入れるようです。改定趣旨は、より早期に支援を始められるようにすることなので、当然これだけではないと思います。ただ、全貌は私たちもまだ知らないので、殊更注目されている「時間」について考えてみましょう。

前提として、私たちは就労支援の立場ですから、ひきこもり状態の方だけが対象ではありません。そのため「6か月以上」という定義に影響されることはほとんどありません。これによって支援が受けられなかったり、途切れてしまうという話は聞いたことがありません。

ただ、専門の支援団体の調査では、この期間設定によって支援を断られるケースを確認しているのだそうで、なるほどそんなこともあるのかと私も初めて知りました。ガイドラインや定義として設定されている以上、私たちのような事情に精通している団体ならともかく、専門性に乏しい場所ではこの期間の設定が邪魔になってしまうのでしょう。

ただでさえ「社会的参加を“回避”」している人たちですから、勇気を出して問い合わせして、断られた日には社会に対する信頼度はがた落ちでしょう。提言はそうならないようにする取り組みなのだと理解しています。

言われてみると、相談に訪れる若者や家族の話を聞いていると「**に相談したんだけど断られた」と教えてくれるケースは意外なほど多いです。ほとんどの支援機関では利用対象者が整理されていますから、当てはまらない方に利用していただくのは難しいのです。

少し話はそれますが、私たちの就労支援の立場でよくあるのは学校や会社など「所属がある場合」に利用できないプログラムがあります。歯がゆい思いをすることが多いのは特に在校生で、未内定のまま卒業を迎えそうな高校生や、大学生の不登校で所属が残っている方には支援ができません。

改善も進んでいて、たとえば厚生労働省の地域若者サポートステーションは、年度終わりの1月から3月には早期につながって、卒業後も孤立を起こさないように支援ができるようになってきています。ただ、1月からが良いならもっと早期に入るのも悪くないのではと思うのです。

例えば、高校生の就活は7月1日から始まり、9月から選考が開始されます。10月の後半にはほとんどの就活は終わるのですが、その時点で決まっていない人は⋯と考えるとせめて10月くらいから移行支援ができると年度内に仕事が見つかるかもしれません。また、半年あれば卒業後の就活でもかなりのスタートダッシュになっているのではないか、と思うところがあります。

半年も前からと驚かれるかもしれませんが、多くの相談型の支援はセミナーを除けば月1、2回の利用頻度ですから、数も決して多くないですし、学校と両立していかなければならない方にとっては多少余裕があるほうが良いのかなと思います。

公的な支援は財源の都合や管轄している部署、省庁などいろいろな背景から生まれる制約があるので、一概に要求通りになるということもありません。

重要なのは当事者である若者が望んでいる支援を利用できないという状況をなくすことであり、今回の提言然り、現場の声を届けていくことが大切だなと気を引き締める記事でありました。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

新着記事 New Articles