若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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信頼をためるという
考え方
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
エデルマンという世界有数のPR会社は「トラストバローメーター」という調査を毎年発表しています。
これは世界の28か国で信頼(=トラスト)を測るもので、政府、企業、メディア、NGO/NPO、4つの組織体が評価対象です。発表資料は公開されており誰でもアクセスできるので、よかったらこちらもご参照ください。
世界平均でみると、最も信頼を得た組織は「企業」でした。「メディア」が50%であるなか「企業」は62%と高い評価を受けています。「NGO/NPO」も59%と2番目に評価されているそうです。
では日本はどうなのかというと、最も高い「企業」ですら47%で、「政府」は33%しかありません。組織ごとの信頼度比較も出ているのですが、ワースト3に必ず日本が入っているのを見ると、私たちはずいぶんと不信感に満ちた生活をしているように見えます。
この国ではいったいだれが信頼されているのだろうか⋯と資料を読み進めていくと「雇用主だけが、信頼されているレベルにある」と題して、63%というほかに比べると明らかに高い値が記されています。よく読むと「自分の勤務先」という表記もあり、より身近な存在は肯定的に考えている方が多いようです。
日々、支援の現場で観察していると「〇〇さんいますか?」と訊ねてくる若者がいます。予約していない日でもフラッと遊びに来ることができる拠点では、そうして支援スタッフとのつながりが若者のエネルギーになっているのが垣間見えます。
話は変わりますが、先日、支援者向けの研修に参加したとき、講師の方が「信頼貯金」という言葉を使っていました。
信頼はいきなり生まれるものではなくて、日々の積み重ねで少しずつ心のなかにたまっていくものだという考えです。支援に限らず私たちのプライベートでも同じですよね。いきなり出会った人を信じるのは難しいし、疑うくらいのほうが今のご時世はちょうどいいのでしょう。
信頼貯金のため方はいろいろあり、別に良いことをしなければいけないわけでもありません。挨拶をしたり、ちょっとした雑談をしたり、そんな普通のことでたまっていくのだそうです。
そうしてたまっていった信頼が活きるのは、なにか問題が起きたときです。学生でいえば、親との関係が悪くて家にいたくないとか、望んでいた進路を歩めないとか、そうして人生の岐路に立ったときに、相談相手として選んでもらえるかに影響します。
SDGsの認知が広まり、一緒に「誰ひとり取り残さない」という言葉も広まっていきましたが、孤立するというのは、誰の信頼貯金もたまっていない状態なのではないかとふと思いました。信頼は信じて頼ると書きますが、信じたり、頼ったりできる経験ができないことで、人は孤立していってしまうのかもしれません。
そう考えると、世界的にみても「信頼」が低い日本で、社会的な孤立が問題となっていくのも納得がいくような気がしてきました。みんなで信頼貯金をためられる世の中にするにはどうしたらいいのか、思考を巡らせる日々です。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)