若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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「単発バイト」がもたらした
若者支援の変化
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
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ここ数カ月はすっかり対面型の支援も元気を取り戻して、活動量も3年前の活気を感じられます。特に8月は毎週のように地域のお祭りがあって、運営の手伝いを依頼された若者たちは日を追うごとに日焼けが目立つようになります。
最近、対面支援のトレンドになりつつあるなと思っているのは、ギグワークです。Uber Eatsなどの配送業を想像されるとわかりやすく、単発依頼単位の成果報酬型の仕事のことを指しています。
例に出したものの、実は配送系の仕事は若者からさほど人気がありません。飲食店とユーザー双方とのコミュニケーションが発生しますし、そもそもバイクや車のような移動リソースが無い方も多いからです。やってみたいという方もおられるので、自転車を貸し出して⋯⋯、といろいろ考えてみたものの、万が一、事故が起きたらその保険は、補償は⋯⋯と考えると、現時点で良い方法は見いだせていません。
これとは別に人気のサービスは「エリクラ」というもので、株式会社リクルートから実証実験として提供されているサービスです。このサービスはアパートの清掃作業やマンションの巡回など、人との接点が非常に少なく、また、当日やるかどうかを決められます。そして受けた仕事のキャンセルも容易であるというのが強みです。
他にも「単発バイト」と呼ばれるようなサービスもありましたが、そちらはコンビニや飲食店などかなり具体的な仕事を要求されているものが多く、一部の若者からはハードルの高さがあると言われていました。
例えば、コンビニで1日働くという単発バイトの場合、レジ打ちなのか、品出しなのか、接客まで求められるのか⋯と想像がつきにくい部分があります。実際に店舗に出向いてみたら聞いていたことよりも要求が高い⋯ということもあり得ます。
エリクラは業務の切り分けがされ、特定の場所の特定の仕事まで区分がされているので、若者にとって具体性が非常に高まっていることが高評価のようです。
私が若者支援に関わるようになって10年ほどたちましたが、常に言われていることは「スモールステップアップが若者の成長を促す」ということです。当時、この言葉を聞いたときにイメージしたステップは5段くらいの印象であったのですが、解像度が高まってきた今考えると、その倍以上は必要ではないかと思うのです。
そもそも、支援機関の利用を始めることが大きな第一歩ですが、その先、相談員と話す、定期的に支援利用する、集団に関わってみる⋯と段階を踏んでいき、仕事を考える段階になると、急に履歴書、求人検索、面接⋯と何段も飛ばしたようなステップがこれまで設定されていました。
これが、最近はエリクラのようなピンポイントの仕事から始まり、単発バイトがあり、雇われる仕事へ⋯と丁寧なステップが社会の中に実装されてきています。
エリクラにしても単発バイトにしても、若者支援のために実装されたものではありませんが、そうした社会側のサービスが繊細に提供されるようになったことで、若者支援はある種のやりやすさを手にしてきていると感じています。
私たちは仕事を見つけ、自立していく段階を「出口」などと呼びますが、この出口が柔軟になってきていることは、多くの方に知っていただきたいと思います。
重要なのは、そうしたエリクラや単発バイトから始めるのを、当人も周囲の人も恥ずかしがったり、自己評価を下げる材料にしないことです。いきなり就職できる人もいれば、そうでない人もいる。そうした声が大きいからこそ、こうしたサービスが提供されるようになっているのですから、自分のできると思えることから、小さくてもひとつステップを上がっていることに自信を持っていただけたらなと思います。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)