若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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「子供」「子ども」「こども」の
ジレンマ
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
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9月にもなると国の調査データがいろいろと公開されてきます。私たちの活動の根幹には、こうした大規模調査も重要な位置にありますので、整理する時期です。
そういえばいつも6、7月ごろには出ていた「子供・若者白書」がまだ公開されていないようです。今年度からは内閣府からこども家庭庁に移管されたことは発表されていますので、今年もいずれ公開されることでしょう。
しかし、文章にすると「こども」の表記は複雑です。白書のタイトルは漢字ですが、庁名はひらがなです。ちなみに文部科学省は漢字表記を基本にしています。ですが、5月5日は「こどもの日」でひらがなです。
「子供」「子ども」「こども」をうまく使い分ける日本語の繊細さは広報担当者としては悩ましいところです。ちなみに私は「子ども」表記を基本にしています。私がこの仕事についた2014年ごろの白書は「子ども・若者白書」だったため、それに合わせていたためです。次に出る白書が「こども」なら、ひらがな表記にスライドしていこうかなと思っています。
若者支援の領域ではこうした表現に悩まされることがしばしばあります。よく言われるのは「障害」「障碍」「障がい」の表記。また「引きこもり」「ひきこもり」についても割れていますね。
「その程度のこと、多くの方は気にしないよ」といわれると確かにそうなのですが、日々、世界中のネット検索の量を調べることができるGoogleトレンドで調べるとその差が見えてきます。
下図は最近1か月間の検索量の遷移グラフです。青が「引きこもり」で、赤が「ひきこもり」で検索している人の比率です。
こうしてみると、漢字で検索している人の方が明らかに多く、ひらがな表記のほうが少ないことがわかります。実際に検索してみると、表記ゆれと認識して、検索結果の1ページ目くらいまでは同じサイトが表示されますが、2ページ目以降は漢字とひらがなでかなりばらつきがみられました。
こういうデータをみると、できるだけ「引きこもり」でライティングをしたほうが良いはずなのですが、どうしても「引」の字は使う気になれません。自動詞だからでしょうか。若者側に責任のウエイトが大きくなるような感じがして気が重いのです。
実は「ひきこもり」は内閣府・厚労省・こども家庭庁いずれもひらがな表記を使っています。メディアは漢字を使っている印象が強く、検索量の違いはそうした差でしょうか。多くの人は漢字を使うけれど、支援側はひらがなを使う。この乖離は何かを意味するものがあるのでしょうか。
こうしてみていくと、カタカナ表記をするものはブレが少なく普遍性が高いですね。英語由来の言葉を和文にするために使われるためでしょうか。日本語は世界中でも難易度が高い言語と聞きますが、その表記方法の幅(表記ゆれ)により書いた人の想いを汲み取りやすいことがメリットとも考えています。
日常生活ではあまり気にされないところかもしれませんが、ぜひみなさんも「子供」「子ども」「こども」に出くわしたら、その表記ゆれに思考を巡らせてみませんか?
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)