そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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「ありがとう」を伝える
難しさ

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

先月までクラウドファンディングを行っていたこともあって、通常の何倍もの「ありがとうございます」と伝える機会がありました。

私はどちらかといえばコミュニケーションをとるのが得意でなく、そんな人間が対外向けの広報担当なんてやっていていいのかと自問自答することも多いです。

「ありがとうございます」と伝え続けると、自分のなかの違和感が次第に大きくなります。これでいいのか、伝えたいことはこれで正しいのか⋯などとモヤモヤしてくるんですね。そんなときにハッとした出来事がありました。

その日は影響の大きなシステムトラブルが起きて、原因解明や応急措置、解決方法⋯と頭がいっぱいのときに追加で急ぎの対応依頼がきました。天秤にかければシステムトラブルの方が重大ではあるのですが、急ぎの案件ということもあって時間を割いて対応。しかし相手からの返答は「ありがとうございます」の一言。

これはいかがなものか⋯と心がざわつき、その日はパートナーにもグチってみたりして平穏を取り戻そうとしていたとき、風呂に浸かりながら妙な反省会を始めてしまいました。その一言で済ませた人の気持ちも少しだけわかってきたからです。私が相手側だったら、最悪、同じ対応をしたかもしれないなと。

私が重大な危機対応をしていることを相手は知らなかったし、逆に私も相手がどんな状況でお願いしてきたかわかりません。相手から見れば作業負担はどれくらいなのか、得意なことか苦手なことかなど、さまざまなバックグラウンドは言わなければ伝わらない部分でもあります。

きっと「ありがとう」を伝えるのがうまい人は、その状況を細かく掴める人なのでしょう。謝意の解像度を高く保つことができたら「ありがとう」はより良いものになるのではないかと思うのです。

34歳にもなっていまさら何をいっているのかと少し恥ずかしくなりますが、しかし、これはそれなりに技術的なことで、知っていないとできないことのように思います。少なくとも私にとっては気配りしろとか、思いやれと言われても、それがどういうことなのか、どんな状態がそれを表しているのかできるのかわからないので。

2024年、年明け早々から、こんな私的なエッセイを読んでくださる皆様には改めて感謝を伝えなければなりません。毎月2本ずつ投稿しているこのエッセイが誰かの何かのきっかけになればと思います。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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