若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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スマホから色がなくなった生活で
気づいたこと
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
先日、ラジオで「スマホに費やす時間を減らしたいという」テーマで、ひとつの手法として画面をグレースケールにするという方法を聴きました。グレースケールというのは完全なモノクロではなく、元の彩色に合わせて濃淡のある状態です。
私も最近、スマホを見ている時間が多くなっていたので、気になって試しにやってみることにしました。設定自体は難しくないのですが、何度もタップしていかないとたどり着かない場所にあるので、気軽にもとに戻せないというのも良いなと思ったところです。
1週間ほど試していて、特に影響があったのはゲームアプリでした。遊べないこともないのですが、かなりの情報を色で判別しなければならず、とにかく遊びにくくなります。もともと遊ぶ回数が多いほうではなかったのですが、アプリそのものをまったく開かなくなりました。
次に困ったのはYouTubeなどの動画コンテンツです。ゲームのように頻繁に操作をすることはないので観られなくはないのですが、こちらもコンテンツとしての魅力は激減。ただ、これは結局スマホからパソコンやテレビを見る時間に還元されているだけのような気もします。画面が大きい分、目に優しいかもしれませんね。
使っていて意外だったのは、アプリを選ぶのがとても難しくなったことです。ほぼ毎日使うようなものはともかく、週に1度ひらくかどうかのものは画面に並んでいるアプリ群から選び取るのが難しいです。記憶がかなり大雑把であることに気づかされます。
あと写真を撮るのも少し難しいです。設定でグレースケールになっているだけなのでフルカラーのデータが残るのですが、撮ったものがすぐに確認できません。目的のものが撮れたのか定かではありません。
これだけの影響を受けたものがあれば、スマホの使用時間が短くなっただろうとレポートを見てみると、微減にとどまりました。上に書いたようなアプリの使用時間はほぼゼロまで減ったのですが、その代わりにマンガや電子書籍に使う時間が激増していたのです。これらはもともとグレースケールですから、使いにくさはほとんど感じませんでした。
グレースケール化でスマホの使用時間を短くする⋯という本来の目的は達成できませんでした。ただ、よくわかったのは時間を消費するコンテンツの多くが鮮やかな色によって支えられているということです。そして、その色を喪失すると、そのコンテンツがおもしろいものではなくなり、興味を持たなくなったというのも大切な気づきだと思います。
時を同じくして市役所に用事があって行ってきました。図書館や行政の窓口のチラシラックを眺めると(用紙がカラーであることもありますが)、モノクロ印刷されたものもチラホラ見かけます。横に並ぶフルカラー印刷と一緒に並んでいると、手に取ってもらうのはかなり苦しいだろうと思わされます。
広報の仕事をしていて、いちばん難しいのが、自分の作ったチラシに愛着が湧くことです。愛着というのは相手の目に留まること、読んでもらえることが前提になっているということです。
グレースケール生活を通じて改めてこの愛着の問題を考えさせられます。自分がわざわざダウンロードして普通に使ってきたアプリでさえ放置してしまうのだから、ここはないがしろにできませんね。
取り留めのない日常のできごとでありますが、ぜひみなさんもグレースケールをやってみてはいかがでしょうか。いかに自分が色に助けられ、また、誘導されているのかを強く実感できます。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)