若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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「負け」を体験した方へ。
はけ口になる話し相手が全国にいます
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
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1か月に1度、地域コミュニティのボランティアの一環でボードゲームイベントを行っています。多いときには20名以上の方が遊びにきます。親子で参加している方が多く、子どもの年齢もだいたい小学校低学年くらいまで。図書館のように「時間を使う場のひとつ」になっている認識です。
イベントを始めてみて意外だったのは、どんなゲームをやりたいか聞くと、協力型のゲームを希望する子が多かったこと。協力型というのは、一定のゴールがあり、みんなでそれを達成するような形式のものです。将棋やオセロのように、一方が勝者になるのではなく、勝つときはみんなで勝ち、負けるときもみんなで負けるゲームです。
そういう時代というのもあるでしょう。実際、協力型のゲームであつまると盛り上がります。協力型のゲームはその先の展開を相談したりするので、盤外で起きるコミュニケーションが重要です。それゆえゲームとしては個人で完結しないため、少し難易度があがるのですが、なんとかやってのけてしまいます。
あるとき「なんで協力するゲームが良いの?」と聞いてみました。そうすると「みんなでやったほうが楽しい」と返答する子も多いのですが、一方で「負けたくない」という回答も一定数います。
負けん気が強いのではなく、負けという事実を作りたくない。そんなニュアンスを受け取っています。勝負事とはいえ、あくまでゲームですからそこまで神経質にならなくても良いのでは? と思うのですが、実際、負けが見えてくるとゲームを途中で投げてしまう参加者もいます。
ある子は「負けたくないからゲームをしない」という選択をしたこともありました。表現が難しいですが、人生も賞金も名誉も、何もかかっていない地域のコミュニティセンターでやっているボードゲームですから、そこまで意固地にならなくてもいいじゃないかと思うのですが、やはり、そこには負けのリスクを感じているようなのです。
負けを忌避する傾向があるのは若者をみていても感じます。今でこそ、“負け組”は死語になった印象がありますが、“弱者”に置き換わったようにも思えます。対立を煽る表現で、できれば使いたくありません。
どちらかが強者・弱者となったり、勝ち組・負け組と言われるくらいなら、みんなで同じ評価をされるほうが気楽なのかもしれません。子どもたちからそういうリアクションが出てくるのは驚きますが、それだけいろいろな競争のなかで生きているのかなと思うと大変さを感じます。
この記事が出るころには小学校から大学まで、概ね受験も終わっているころだと思います。思い通りにいった方もいかなかった方もおられるでしょう。
月並みな言葉ですが、悔しがることはあっても、その結果だけで自分が負け組とか弱者だとか決めつけるようなことはしないようにしていただきたいなと思います。また、無理に受け入れる必要もないと思います。どうしてもやり場のない気持ちは誰かに打ち明けて話すことも大事です。話す相手がいなければ、さまざまな若者支援をする団体があります。最近ではLINEやチャットを使って話せるところもあります。匿名でできるし、相談員が合わなければすぐに切っても大丈夫です。
言葉でいうのは簡単ですが、実際に話すのは難しいこともあると思います。そういうときは「何から話したらいいかわからない」という相談でも良いんです。相手は聞くプロですから、きっとあなたの感情を整理してくれるでしょう。
ひとりで考えると自分の頭の中だけで堂々巡りして、どんどん苦しくなりがち。ぜひ周りを頼ってくださいね。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)