若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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「若者に弱さを感じる」
という声から考えること
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
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あるイベントで出展していたとき、隣のブースの方から「働けない子、増えてるんですか?」と声をかけられました。その方は、普段は飲食店で働いているそうでボランティアで参加していると教えてくれました。
年齢は勝手な推測ながら60代くらいで、長くお店をみてこられたのだなという印象を受けました。イベントオープン前でいろいろお世話になることもあるだろうからと、私たちの活動を簡単に説明させてもらいました。
その方は「自分のころとは違う感じがする。どうも働けないように見える」とおっしゃるのです。アルバイトをしている若者たちを見てそんな気持ちを抱いたそうで、「働く」というのはいわゆる正社員のような働き方のことをおっしゃっているようでした。いろいろとお話を聞いていくうち、たしかにその方のおっしゃる「自分のころ」との違いを感じた部分があったので、今回はそれについて書いてみようと思います。
ひとつは景気が悪い時代しかしらない若者が多いこと。仮にバブル崩壊後を90年以降とすると、「景気が良い話」をほとんど聞いたことがありません。日本経済が衰退する話は聞いても、輝く未来を実感したことはありません。
景気の良し悪しとは別に、働かないといけないじゃないかといわれることもあります。もちろんそうなのですが、景気が悪いとそもそも雇用市場は縮小していきます。昔なら2人雇えた企業が1人しか雇わなくなると、即戦力になる人が求められて、育成枠まで手が伸びなくなっていく。そうすると、若者には「お祈りメール」が届きます。働こうと思っても社会から必要とされている感覚がなく、自身の存在価値を見いだせない方もおられます。
それに拍車をかけるインターネットの存在も大きな違いでしょう。インターネットからは情報をまんべんなく取り入れられるように見えて、無意識に自分が求めている情報を目指して探し続けているにすぎません。自分が検索してキーワードから情報を仕入れる以上、きわめて恣意的な情報源であって注意しなければなりません。
気持ちが落ちているときにポジティブな情報を探せる人はそう多くありません。働くのはブラックだ、薄給だ、使い捨てられるんだ⋯⋯そんな情報が目に飛び込んできます。それはある程度事実かもしれませんが、すべてがあてはまるわけではありません。
現代はそれに加えてSNSが登場し、同じような考え・思想を持った人が集まりやすくなりました。エコーチェンバー効果ともいわれますが、「働くことに良い未来が描けない」という人が集まればそれだけが真実として刷り込まれていくこともあります。
年配のボランティアの方は「働けない」という言葉に「なんとなく弱さを感じるんです」と話していました。それに対して思うのは、ここまで書き連ねてきた社会の在り方も原因なのではないでしょうか。
また、個々の強さが見えにくい時代にもなりました。ひきこもりに悩んでいると相談に来た若者が、SNSで数万人のフォロワーを抱えるクリエイターだったこともあります。たしかに旧来の社会では弱さが目立つかもしれませんが、これからの社会において生き残る強さを持っているのは彼のほうかもしれません。
私自身、昭和を生き抜いてきた先輩たちの働きぶりを見て強さを感じます。その強さの根源がどこにあるのか、どこから出てくるものなのか教えていただきたいといつも感じています。その強さを尊敬する一方、若者にその強さを見いだせないとき、どうか弱さとして憂うことなく温かく見守ってあげてほしいなと願うのです。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)