若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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23年度に若者支援で
起きたこと・変化を振り返る
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
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2023年度のエッセーはこれが最後ということで、今年度に私の周りで起きた、若者支援に関することをまとめてみたいと思います。
ここ数年変わらずトレンドにあるのは、スモールビジネスと若者支援のコラボレーションです。単発で始められる仕事の市場は若者支援に限らず大きくなってきていますが、それに乗じて若者支援の場でも有効活用されてきている印象を受けます。
10年くらい前に「みんなが個人事業主のようになって働く社会に変わっていく」という言説をSNSでよく見ていたのですが、いままさにそんな感覚で働く人が増えてきたように思います。この流れはより加速していくのだろうと思いますし、同時に、若者にとっては雇われてひとつの会社で働くことがリスクともとれるかもしれませんね。
そう思わせるもうひとつの大きな流れはAIの大きな進歩です。ChatGPTをはじめとするLLM(大規模言語モデル)の話題は尽きることなく、関連ニュースが連日入ってきています。私自身、語れるほど取り組めているわけではないのですが、AIに深くかかわる多くの人が口をそろえていうのは、私たち個人の創造性を支える存在であるという表現です。
思っていても形にできなかったものがAIの支えがあれば違う結果になるかもしれない。ドラえもんのように道具として貸してくれるわけではないけれど、プログラミングはしてくれる。そう考えると想像力というか「こうなったらいいのに」と思い描く力がとても重要そうです。
若者支援の特に相談の分野も、関わり方の質は変化するように思います。極端なことをいえばこのまま技術進歩が続けば、近い将来24時間365日いつでも、いくらでも相談できるようになります。逆に言えば、特定の時間をわざわざ決めてやる対人相談がどんな価値を持つのか、あるいは持つべきなのかというのは今後の課題なのでしょう。
もうひとつ、若者をテーマによくあがった話題は、新宿・歌舞伎町の「トー横」をはじめとする若者が集まる「界隈」のことです。孤立・孤独の問題として扱われることが多いこの領域ですが、「界隈」の若者はある意味でそこに居場所を見出しているケースもあるということを、支援しようとする私たちは忘れてはいけないなと思います。もちろん、ハイリスクな場であり、社会的に望まれない場であるのは間違いありませんが、そんな場に居心地の良さを感じていることを、支えようとする側は意識していなければいけないですね。「界隈」に集まる若者の支援がより強化される方針も感じていますが、集まる若者が悪いということにならないように願います。
振り返ってみると、若者支援、そのなかでも就労支援の領域は「働く」の観点から少しずつ距離を取るようになってきているように感じます。もちろん、ひとつのマイルストーンとして「働く」はあり続けますが、それに至る道のりをさかのぼっていくようなイメージで、相談に来ない若者と出会うには、相談をしてもらうには⋯⋯と従来の支援に至る前の若者を想像しながら遠いところへと射程を伸ばしてきています。
私が若者支援に関わるようになって10年経ちますが、変わり映えのなかった1年というのはなかったように思います。来年度もまた、同じように大きな変化や動きとともに若者に寄り添っていくのでしょう。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)