そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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企業の2/3が採用充足できない
現状に感じること

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

興味深いニュースをみました。大学生の就活市場の大きな変化です。いわゆる「就活解禁」といわれる3月1日時点で、翌2025年卒業の大学生の就職内定率が40.3%となったという調査結果です。いまのルールに変わった2017年当時は4.6%だったそうで、就活シーンがまったく違うものとなっていることを感じます。

国から提示されているこの「就活解禁日」が、もはや形だけになっているのかもしれませんし、早期からのインターンシップで企業とのコミュニケーションをとる機会が増えていますから、セオリーそのものが新たな変化を起こしているのでしょう。

一方で、企業の採用充足度についても触れられていました。『就職白書2024』(就職みらい研究所)では、2024年卒の学生の採用充足状況では採用充足した企業は36.1%しかないのだそうです。およそ3社のうち2社は満足な採用に至っていないことがわかります。応募数の減少や辞退も影響しているようです。

あるとき、経済系メディアの記者さんが取材にいらっしゃり「少子化が進んで、働き手の不足が叫ばれていますよね。海外から人材を集めているけど、日本には働けないでいる若者がたくさんいるのに⋯」といわれたことがあります。たしかに、私たちが参考にする統計データをみると、200万人近い若者が働けないでいると計算しています。新卒採用は特殊な就活市場ですから一概には言えませんが、充足しない企業がより幅広い目線で若者の採用をされると充足に近づくようにも思えます。

若者は失敗に強い嫌悪と不安を抱いています。大学生のときの就活がうまくいかなかったある方は「これで人生は終わりです。新卒カードを使えない就活は終わってる」と話されていました。それだけ、日本では新卒一括採用の波に乗れるかどうかが重要と捉えられているのですね。

最終的には90%代後半に到達する内定率ですから、大多数の同級生とは異なる結果に至った自分に自信が持てなくなってしまうのは仕方のないことだと思います。「第二新卒」という考え方も生まれていますが、新卒のときとは就活の仕方も変わってしまいますし、苦しい実態があることも理解できます。

ぜひ、企業で採用活動をされるみなさんには「若者200万人の市場」があることを知っていただきたいです。私たちの支援プログラムを利用する若者たちは世間から、ひきこもり、ニートと呼ばれることもあって、先入観で避けられたり、雇用に不安を感じていることも多いと思います。

でも、仕事体験やインターンを通じて若者と関わると「全然、普通の子たちじゃないですか。なんで働けなかったんですか?」と考えが変わっていく姿を何度もみてきました。ひきこもりもニートも全体の概要であって、ひとりひとりのことを的確に表現した言葉でないことを改めて実感させられます。

王道ルートにうまく乗れなかった場合、第2、第3の選択肢がほとんどないように思えます。これでは「終わってる」と失望感を持たれても仕方ないと思います。少しでも変わっていくことを期待しながら、私たちも企業への営業を続けています。

内定を取れずに卒業に至った方がおられましたら、まずはなんでもいいのでどこかにつながっていただけたら嬉しいです。ハローワークでも構いませんし、地域若者サポートステーションも全国にあります。オンラインの支援プログラムも最近は増えてきて全国から相談ができます。多くの企業が満足できる採用でない以上、次のチャンスは必ずありますから、ひとりで抱えることなく、周りの力を借りる方法を考えてみていただければ嬉しいです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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