そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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採用直結型インターンシップと
多様な就活のあり方

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

最近ではすっかり就活に定着したインターンシップ。私が大学生だった10年前と比べても、参加を前提にしている学生が多くなっているように思います。その背景にあるのは三省合意と呼ばれる「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」(文部科学省、厚生労働省及び経済産業省合意)の改正もひとつあるようです。

これまで省庁によるインターンシップの定義は説明会やイベントなどの「オープン・カンパニー」と呼ばれるものと、大学の講義に企業が参加する「キャリア教育」というふたつでした。いずれも私たちのイメージとは印象が異なるものではないでしょうか。

このギャップは今回の改正で埋まり、企業での実務を伴う体験もまたインターンシップであるいうことが明記されるようになりました。一般的な解釈に近づいたのは良いことかなと思います。

そして、もうひとつ重要な点があります。「要件を満たした体験で得られた個人情報は採用活動に利用できる」ということが記されました。業界的には「採用直結型インターンシップ」とも呼ばれていますが、体験に参加した学生への採用活動を行いやすくなったのです。制度改正したばかりなので企業側も様子をみながら進めているようですが、インターンシップと採用活動が紐づくというのは、私たちのような若者支援の場でも重要な視点です。

従来の就職活動の基本的な流れでは、書類選考と面接はほぼ確実に実施されますが、いわゆるひきこもり経験のある若者や無業期間が長かった若者は、こうしたものに強い忌避感情を抱く方も多いです。履歴書でいえば、学校や会社から離れている期間があると「空白」ができてしまうことが不安要素になります。同年代と比べてキャリアが希薄になってしまって自信を持てないのも要因です。書類選考を通っても、面接もやはり苦手な方が多くいらっしゃいます。それまでの自分に自信がなくて、不安のほうが勝ってしまうのです。

そうした点から見れば、過去の経歴を見られる就職活動は苦しいシーンが目立ちます。しかし、インターンシップから始める就活となるとだいぶ視点が変わります。もちろん、企業と若者の間で事前の顔合わせや打ち合わせはありますが、それは選考ではなくて人付き合いとしてのもの。なにより、過去ではなくてこれからのための面会ですから、深く過去を掘り下げるような空気にはなりにくくなります。

そして、インターンシップは面接のような短時間の選考ではありません。実際の仕事を通じて、人となりを知ってもらったり、社員とのコミュニケーションから見立てをたてることもできます。現在の自分をまず見てもらえることが、重要な観点ではないかと思います。

実際にインターンシップを通じて、企業と若者の間で話が進んでいくことも数多く見てきましたが、企業側からすれば若者と出会い、つながることができる点、そして若者からすれば過去を不問にして見てもらえる点が大きな魅力なのではないかと思います。

大学就活におけるインターンシップは、こうした意味合いとは異なる部分もあるかと思います。特に売り手市場化が進む現状では、できるだけはやく人材を確保するためのひとつの戦略としてとらえられているかもしれません。

ただ、従来の就活の流れでは成立しなかったであろう企業と若者のつながりを先行して見てきた私からすると、就活の多様化という観点から挑戦する企業が出てきても良いのかなと思います。特に就活市場で苦戦する中小企業においては、大企業とは異なる意味で若者とかかわりを持てる価値がある改正なのではないかと思います。

今後、大学就活に限らず、多くの場でインターンシップが就活の新たな選択肢として有効活用されるようになるといいですね。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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