そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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信頼度調査からみる、
支援のあり方

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

日本非営利組織評価センターからNPOの信頼性についての意識調査が発表されました。NPOは行政と企業と並ぶ民間というくくりで第3セクターなどと呼ばれることがありますが、これにメディアを加えた4つのセクターに関する比較調査です。

「NPO」を信頼できると答えた人は20.2%。最も信頼されているのは「企業」で、NPOはその次に位置しています。世界各国の比較をしたもうひとつの調査がありますが、おおむね近い結果が出たようです。信頼されていない値が高かったのは「政府」で、「メディア」も同じくらいの割合となっていました。ただ、そもそも最も信頼された企業ですら、24.5%という結果はどれも高いとは言いにくい印象をうけます。いったい私たちは何を信じているのでしょうか。

もうひとつ、私たちが何を信じるのかを示す調査として、トランスコスモス株式会社が行った「消費者と企業のコミュニケーション実態調査2019」があります。こちらの調査では、ユーザーの商品購入前相談の行動で、購入の決め手となる要素として、「クチコミ」が35%、「コミュニケーション体験」が33%という結果が出たようです。若年層に絞るとその割合が大きくなることも分かっています。

また、情報収集の段階でSNSが大幅に上昇することもわかりました。商品提供する会社や主体となるものではなくて、同じような立場のユーザーの声や自分自身の体験に大きな価値を見出すようになっていると感じます。昨今ではSNSでの広告詐欺の問題もニュースで取り上げられたり、そうした個人の活動も疑いの目でみなければならないことが多い部分もありますが、端的に冒頭の4つのセクターとは異なる立場に注目しておく必要はあるように思います。

話は少し変わりますが、ある支援員が「支援というよりも役に立つことが大事」と話していました。これは私の勝手な解釈ですが、一般的に支援といわれるものは目的や提供サービスが決まっています。就労支援でいえばキャリアの相談であり、模擬面接であったりです。「わたしはこれができます」という提示を「支援」という言葉から受けます。「役に立つ」はどちらかというと奉仕的で、利用価値を感じてもらえることに重きがある印象を受けます。自分の仕事を限定せず、要求に応えていくような印象です。

若者側の立場に立つと、いろいろ支援サービスが存在し必要であったとしても、信頼を得られないことには選ばれることはありません。そういう意味では、前に書いたような身を持った体験ということを積み上げておくことが、支援を受けてもらうための近道なように思います。

私たちがやりたい支援はさておき、若者の役に立つことで信頼を積み上げていく。それは支援とおせっかいの境界線のようなところで、外周にでていくほど多様化します。宿題を教えたり、一緒にゲームしたり簡単にできそうなこともあれば、生活の苦しいときには食べ物を渡せたり、ときには家族との間の仲介なんてことも起こっています。支援者に求められていることは、年輪が外に向けて広がっていくように大きな円を描き多岐にわたるように変化をしてきています。

別の言葉でいえば「アウトリーチ」にあたるのかもしれませんが、若者を支えるためにはまず若者との接点を持ち、また関係を継続する価値があることを知ってもらわなければなりません。それは提供サービスの有効性は前提としながらも、その支援を受け入れてもらえる関係性が必要なことを再認識させられました。

何が信じられるのかすらわからないこの世の中に、だからこそ人と人とのお付き合いを大切にしたいと思いふける調査結果でありました。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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