そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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相談のきっかけは
なんでもいい

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

4月以降、退職代行のニュースや記事をよくみかけました。新卒や異動のある時期ですから、疑問を持った方が多く利用しているとSNS上でも拡散され、メディアでも代行会社がインタビューに出ていました。いっしょに「配属ガチャ」という言葉も広がっています。

新天地特有の行き詰まりにビジネスチャンスがあることを発見した方には、慧眼というか、驚きました。退職の意志はあるが伝えにくい、伝えられないというのは、むしろNPO的というか、私たちのような団体のほうに役割が回ってきそうなものだと思ったのですが、新たな会社がどんどん参入してビジネスに昇華しているということは「お金を出してでも今の環境から離れたい」と思っている人が、それだけいるということなのでしょう。

育て上げネットでも春には問い合わせが多くなります。学校を卒業したばかり、会社を辞めたばかりという方ばかりでなく、しばらく家にいたけれど意を決してという方もおられます。

お話を聞いていると「4月になって頑張ろうと思って」と教えてくれる方もおられます。新たなチャレンジや心機一転をするにはちょうど良い時期だと、文化や意識に根付いているのかなと想像しますが、重要なのは、そこできっかけが与えられたということではないかと思います。

きっかけというのは必ずしも本人発でなく、そして崇高なものでなくて良いのでしょう。理由はどういったものであれ、自分が動く理由になればそれで充分。動き始めれば他者との関わりも増え、その人たちが信じられるか、一緒にやっていけそうか等々、こちら側の力量の問題も大きく影響するので自分だけでやっていく必要もありません。

孤独・孤立の状態にあると、どうしても周りに相談(話す)相手がいなくて、対話相手は自分だけ⋯なんてこともあります。内省が悪いとは言いませんが、消極的な答えに行きついて自己嫌悪、負のスパイラルに陥ってしまうこともあるので、できればどこか吐き出せる場所を持ってほしいなと思います。

仕事柄、若者支援に携わる人たちとよく話しますが、彼らは口をそろえて「もっと気軽に話してほしい」と言います。相談しにくいのは“相談”なんて仰々しい言葉を使うからいけないのか、これが誤解につながっているのかもしれません。

あなたが動きだすきっかけに優劣はありません。少しでも稼ぎたい、このままではいけない、親の目がきつい、昔の友だちに引け目を感じずに会いたい⋯どんなものであれ私たちは尊重してお話を聞きますので、「こんな話はしてはいけないのでは」なんて遠慮せずお話を聞かせてもらえたら嬉しいです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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