そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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スーツ3万円の負担、
就職活動の見えない費用

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

春先のごたごたが落ち着いてきて、いよいよ夏がやってくるなと身構えています。今年もまた、形容しがたい暑さに耐える日々が近づいていると思うとすでに憂鬱です。

あまりご存じない方もおられるかもしれませんが、7月は高校生の就活が始まるシーズンです。求人情報が公開され、職場見学や説明会など企業と学生の距離が詰まっていく時期です。入社試験は9月なので就活に時間を割くようになります。

そんななかで「スーツがない」ということで相談を受けました。高校生の就活なのだから、制服で受けられるのではないのかなと話を聞いてみると、その方は定時制高校に通っていて、いわゆる制服を持っていないのだそう。全日制と違って制服を設定していない高校もあります。卒業式のような式典のときでも自由で、スーツやジャケットで済ませることができる学校は多いです。

しかし、就職活動となるとそうはいきません。むしろ制服がないのであれば、しっかりとリクルートスーツを用意する必要があります。この方は学費だけでなく生活費まで自分で稼ぐ生活をしていて、日々の生活で手いっぱいな状態。親族を頼ることもできず、スーツを用意するのはしんどいということで相談してくださったのです。

実際、就活のためにスーツ一式そろえてみようと調べていくと、だいたい3万円ほどかかることがわかりました。第一印象は「これは厳しいなぁ⋯」です。社会人となってしばらく経つ今でさえ、必要とわかっていても3万円をまとめて出すのはそれなりに躊躇しますし、アレとコレは我慢しよう⋯と財布のひもをしっかり締めるでしょう。学生のときだったらなおのことでしょう。

今回は私たちが実施している、就活や支援を受けるときにかかる実費を寄付でまかなうプログラムを活用していただくように提案しました。このほかにも交通費などの負担が苦しければそうしたものも補助しています。

就活に限らず、実費というのは見逃されやすい負担であります。当たり前のようにリクルートスーツを着て面接に来てるけれど、実は最低限の費用負担を超えられたことの証左でもあります。

あるとき、私たちの制度を利用している若者がいきなり来なくなってしまったので、電話で話してみたら「交通費が苦しい」と。利用したくでもできない理由があることを知りました。そうした話を聞くたび「利用費無料」を実費も含めた意味で実現していきたいものだと思うのです。

上記のプログラムはありがたいことに、こうした実費負担の問題に共感してくださる多くの方に支えていただけています。きっと自分の過去を振り返って同じような経験をされた方も多いのでしょう。

就活にしても学校にしてもさまざまな悩みに困っているときは、とりあえず「誰かに話してみる」というのがやはり重要なのだと思います。もちろん、全員が真剣に聞いてくれるわけではないですし、反応が薄いかもしれませんが、今回のように悩みを教えてもらえたことで可能性を拡げられる場合もあります。

自分のなかにない答えを他の人が持っていることもありますので、抱え込まずに話してみるというのが大切だと思います。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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