若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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居場所支援で出会う若者たちの
もとめるもの
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
公開:
いまや企業が社会課題に取り組むのは当たり前の世の中になってきて、採用市場でも社会貢献ができるかどうかが、応募する側の検討指標に現れるようになりました。NPOは企業と社会貢献活動をつなぐハブでもあって、ボランティアの受け入れや協働事業など多様なあり方が模索され続けています。
先日、ある企業の方を招いた職業人講話というものを実施しました。若い人が将来像を描こうにもモデルケースが限られていて、両親や先生くらいしか働く大人のイメージがつかないという話もよく聞くのです。
職業人講話は「普通の社会人」の話を聞いてもらう機会です。ただ就活するだけでは選択肢にしないような業種の話を聞いて、視野を広げることができます。そんなふうに高尚な目標やテーマもあるのですが、実際にやってみると、若者は思った通りの反応をするわけではありません。
今回は、とあるインフラを生業とする方にお話を聞きましたが、その会では講師の方に匹敵するほどの知識量を持った若者がたまたま参加していました。「その土地はもともとこういう建築物があって、それをつぶしてできたものですね」とか、「こういう理由があって建て替えになりましたよね」とか、発言されました。
みなさんなら、そんな参加者がいたらどうされますか?
私だったらまず「思っていた流れじゃない!」と焦ります。だって、話そうと思っていた次のスライドのネタバレを言われてしまうと構成がくずれてしまうし、時間の割り振りも予定していたところからずれてしまいますよね。そういう自分本位な心配がまずでてきてしまいます。
しかし、その日、話してくださった方は若者が披露する知識一つひとつを丁寧に拾い「何で知ってるの?」「すごいね、うちの職員?」「えぇっ!うちの若いのもそんなの知らないよ!」とリアクションをしながら会話を展開していきます。
これはすごいなと感心するばかりです。傾聴が重要とはよく言われますが、自分が話したいことを話すのではなく、自分の話題はきっかけとして、若者の話を遮ることなく、そして場の空気を壊すこともない場づくりをされたのです。
10名ほどいた参加者は次第に前のめりで聞くようになり、2時間、しっかり集中して参加されました。仕事の話を聞いてもらうというのは結構難しいことで、途中で飽きてしまって散漫な参加になってしまう方がいるのもよくあることです。今回、講話が終わっても席を立たずに社会人の方に質問しにいったり、話を持ち掛けたりするのを見て、若者から信頼を得るための心得を感じたのです。
私たちは若者にこうなってほしい、ああなってほしい、知ってほしい、感じてほしいといろいろな欲求を持ち、活動をしています。しかし、それはやはり私たちの要望で若者の気持ちではありません。この日求められていたのは「誰かと話したい、関わりたいということで、それに丁寧に付き合ってくれること」だったのではないか。そんな風に感じています。
もちろん、今回は居場所支援であることも影響しています。「働く」ことを目的とした場所であれば、若者の話は働く環境やキャリアのイメージのような、もっと具体的な話が出てくることも付記します。
若者支援のトレンドになりつつある居場所支援は、人と人の関係やつながりを感じられることが重要だと認識させられる機会でした。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)