若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー
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一人ひとりにあった
「ステップ」を作るには
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
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イラストを描きたい、アクセサリーを作ってみたい、音楽をみんなでやりたい。そんな「したい」というエネルギーを持つ若者が数多くいます。働くイメージを描けなくても、自分から発せられる欲求を具体化することには前向きです。
大阪にある拠点ではコーヒーをテーマにしたプログラムを実施しています。豆の調達から焙煎、ドリップまで、誰かにふるまうための一連の流れを通じて人とのかかわりを感じられます。淹れたコーヒーはスタッフが試飲して感想を言ってみたり、コミュニケーションの練習になるのです。
企画を進めていくと、やはり「次のステップ」を考えてしまうもの。「今度、コーヒーを売ってみない?」と話をしたところ、若者から売りたくないという反応がありました。
話を聞いてみると、自分で作ったもので対価を得るのは不安があるのだと教えてくれました。「売る」という行為に抵抗があるとわかったので、スタッフからは「売らないで配るのはどう?」と提案しました。この提案には若者も理解を示してくれて、先日「売らない珈琲屋さん」という企画を実施しました。
飲食店の一部を借りて、スタッフと若者が練習してきたコーヒーを淹れる。それを目当てに来てくれたお客さんにふるまいます。数時間のうちに、話を聞きつけた知人や他の支援機関のみなさんが遊びに来てくれて、若者からコーヒーを受け取ってくれました。
もともと、若者支援の領域には仕事体験という考え方があり、さらに発展したところでは、団体で店舗を持ち、飲食店を経営しているところもあります。接客や調理、会計などそうした体験ができるので、働くうえでの効果的な機会提供になるのですが、一方で今回の若者のように、売ることに抵抗があると参加機会を逃してしまう方もおられるでしょう。
潔く「売らない」と選択したことで、若者がスタッフ以外の人と関わる機会を持てたり、店頭に立ったりできるなら、それは重要な一歩であると思います。
いずれはこの方にも社会参加をしていただきたいですし、その際には自分の仕事の対価としてお金をいただくこともあるのだと思います。まずは受け取ってもらうことができたから、どこかのタイミングで対価をつけていくことにも挑戦してもらえたらうれしいですね。
スモールステップを重ね自信をつけていくのが重要とよく言われますが、スモールの度合いは人によって違うので、一人ひとりにあうステップを作っていける力がスタッフには求められているようです。
私たちが出会う若者の多くが自信を失っています。そのなかでも小さな「できそう」を拾いあげ、動機にすることが、私たち支援者と呼ばれる人たちに求められるスキルなのではと感じるできごとでした。
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか
認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)