そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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過去最高を記録する
高校求人倍率からみる進路選択

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

今年3月に卒業した高卒者の求人倍率が3.98倍となり、過去最高を記録したそうです。2021年から倍率が毎年上がり続け、上昇傾向をひしひしと感じさせます。工業高校はさらに高倍率でなんと20.6倍(2023年)で、1人あたりに20の求人があるというまさに「金の卵」状態の再来です。

つい最近みてきた高校の進路相談室には、企業からの求人資料があふれかえり、その雰囲気が立ち込めています。名の通った会社も、大卒求人でも見るようなものもチラホラ目に留まります。

倍率だけでなく、選ばれるための取り組みも進んでいます。長らく変化がないと言われ続けてきた給与体系にも、ついに胎動のような兆しがさすのでしょうか。

一方で、高校生本人たちにそれが伝わっているのかというと、そうでもないように思えます。学校支援に携わるスタッフに話を聞くと、いまもなお大学進学は進路選択の優位側にあり、できるなら進学したほうがよいと考える若者がいまも多いのだそうです。

あくまで進路選択の考え方であるので、大学進学も高卒就職もすべては自己選択ですし、大卒求人が減ったわけでもないので、高校段階での選択肢が広がったことは若者の雇用環境としてみれば良いことではないでしょうか。

こうなると採用ができない会社は厳しくなってきます。黒字倒産も増えてきているようで、その理由が「人材不足」だとするものも多いです。23年度は過去最多級で、ITや観光業界が顕著です。今年度の上半期は運送業界が倒産に追い込まれています。小規模な会社ほど、ひとりの働き手の不足が影響しやすく苦しくなってきているのでしょう。実際、私たちが拠点にする東京都立川市を中心に展開する立川バスでも、人員不足を理由にした大幅なダイヤの減便が行われました。

先日、経済誌系の記者さんに「なぜこんなに人手不足なのに、働きたくても働けない若者がこんなにたくさんいるのでしょうか?」と問われました。答えがあるのなら私たちも知りたいというのが正直なところですが、そのミスマッチこそ、取り組んでいかなければならないことの一つのように思います。

大卒も高卒も採用に困難を感じておられる企業のみなさんには、ぜひ、若者支援団体にもお声がけをいただけたら嬉しいです。日本中の支援機関に大なり小なり若者が通っています。

職場体験や見学の機会をいただけると若者たちもイメージがしやすくなります。難しければ短い動画にまとめていただくのもおすすめです。支援者もそうした情報があると若者と話しやすくなるし、得意不得意のある若者のなかから「きっと合う」と推挙してくれるでしょう。

若者たちは一般的な求人のある場にアクセスできていないこともあります。ハローワークや求人サイトを忌避していることもあります。だからこそ、支援をする私たちのような存在にその情報を伝えてみてはいかがでしょうか。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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