そこらへんのワカモノ

若年者就労支援などの活動を行う、認定NPO法人「育て上げネット」理事長の工藤啓氏とスタッフによるエッセー

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ゲーム好きをかわれて
講演会をしてきました

認定特定非営利活動法人 育て上げネット
山﨑 梓(やまざき・あずさ)
※組織名称、施策、役職名などは掲載当時のものです
公開:

最近、何度か自分の半生に触れた話をさせてもらう機会をいただきます。NPOに10年もいて、そのうえバックオフィス業務といえば珍しいのでしょう。登壇できる貴重な人材と思っていただけるのは嬉しいです。

そのなかでもゲームやマンガ好きが高じてお話をさせていただく機会をいただいたのは、今後もうないことだと思います。講演会に参加されたのは、さまざまな悩みを持つ若者の保護者のみなさんです。年代はさまざまでしたが、どちらかといえばデジタルネイティブでない50代以上の方が多かったように思います。若いころから「ゲームやマンガは悪である」と教えられてきた世代です。酒やたばこのような依存性が高く、生活に影響があるものだと考えている方も多いのでしょう。

確かに最近のゲームは依存性が高いものも決して少なくありません。のめりこんでいくと抜け出せなくなり、射幸心をあおるような商業性の高いコンテンツのほうがトレンドであることは否定しにくい状況です。そうなると「悪」とする考えが肯定される状況かもしれません。

一方で、『マインクラフト』のように学校教育でも使われる優秀なツールとなるゲームもあります。そうしたコンテンツは今後も増えていくでしょう。ビジネスでもゲーミフィケーションの理論は多用されていますし、ゲームの持つ構造やシステムは触れておいて損はしない体験になりそうです。

講演でお話を聞いているなかで発見がありました。理屈よりも前にあるのは「よくわからない」という感情です。自分では体験していないものを理解しろというのはなかなか難しいもので、それはゲームに限った話ではないでしょう。

オリンピックなどを見ていて、たくさんの日本選手が活躍しているのは素晴らしいと思います。しかし、10代前半の選手が活躍しているのをみていると、彼らがその競技をやっていくことを親御さんはよく応援できているなとも思うのです。

私だったら、自分の子どもが「スケートボードやりたい!」と言い出したとき全肯定できるかといわれると、ちょっと難しい気がします。でも、それは自分がやったことがなくて漠然とした不安がまずあるからでしょう。野球やサッカーだったらそういう感情は起きないと思います。そうであるから、親世代のみなさんにも「ゲームをやってみてはいかがですか」と提案するのは難しいですね。歳を重ねるたび、未体験のものに手を出すことに莫大なエネルギーが必要になっていく自分を鑑みれば、そんなハードルの高いことは言えませんでした。

では私はなぜオリンピック選手を応援できたのだろうと思うと、彼らが目指すべき目標がはっきりしていたからだと思います。メダルを目指すという私でもわかるゴールが設定されていたから、その瞬間だけ手放しで応援できるミーハーになれたのだと思うのです。

未体験のものには、ミーハーでもいいから知っておくということが重要なのだと思います。我が子がのめりこむほど時間を注ぐのは、何か理由があるのではないか? その達成を応援してみるのはどうか? というご提案をさせていただきました。

私たちの支援プログラムでも清掃や農作業をするものがありますが、これは決して清掃員や農夫になるためのものではありません。そうした場から学べるものを身につけていくためのツールや環境でしかないのです。

知らないことに不安を抱くのは当たり前のことです。そして一方ではゲーム依存のように実際に医療を頼るべきケースもあるので、ゲームのすべてに迎合することはできません。それを前提にしながらも、ゲームなどに時間を費やすことを頭ごなしに否定はしないでほしいと思うのです。

認定特定非営利活動法人
育て上げネット 理事長
工藤 啓
1977年東京生まれ。2001年、若年就労支援団体「育て上げネット」設立。2004年5月NPO法人化。内閣府「パーソナルサポートサービス検討委員会」委員、文部科学省「中央教育審議会生涯学習分科会」委員、埼玉県「ニート対策検討委員会」委員、東京都「東京都生涯学習審議会」委員等歴任。著書『大卒だって無職になる』(エンターブレイン)、『ニート支援マニュアル』(PHP研究所)、『NPOで働く-社会の課題を解決する仕事』(東洋経済新報社)ほか


認定特定非営利活動法人
育て上げネット 広報担当マネージャー
山﨑 梓
1990年生まれ。2010年から学生ボランティア団体で災害救援活動や地域貢献活動に参加。卒業後に育て上げネットに入職。ユースコーディネーターとして支援に関わりながら調査・研究を担当。現在は広報・寄付担当マネージャー。行政・自治体の若年無業者向けの支援に関わる技術審査員等歴任。共著に『若年無業者白書2014-2015』(バリューブックス)

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