大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート
第4回 Part.4第4回 安価な生分解性プラスチックを畑のなかからつくり出す(4)
Part.4
触媒を使わない方法で
ポリ乳酸を合成
工学教育府 応用化学専攻 国眼 孝雄研究室
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私たちの身の回りにはプラスチック製品があふれている。家電、情報機器、文具事務用品、日用品、容器類などプラスチック製品に囲まれて生活しているといっても過言ではない。そのなかでも毎日のように、使っては捨てるというパターンを繰り返しているのがプラスチック容器類だ。現在はプラスチック容器類のリサイクル率が上がったとはいえ、分別されないままゴミとして捨てられ、最終処分場に埋められるものも多い。これでは、環境に負荷をかける一方だ。そのため、分解されて自然に返っていく生分解性プラスチックが注目を集めている。そこで今回は、生分解性プラスチックの研究に取り組んでいる東京農工大学の国眼孝雄先生の研究室を訪ね、お話をうかがった。(Part.4/全4回)
60%の乳酸水溶液ができると、次は合成プロセスになる。このプロセスでも、新しい方法を取り入れている。
「このプロセスでは、乳酸と乳酸を合成します。これを自己重合といいます。そして、ポリ乳酸というポリマーをつくります。合成にもいろいろな方法がありますが、通常は錫などの触媒を使うケースが多くなっています。しかし、我々は触媒を使いたくない。畑のなかのオンサイトプラントで合成できるようにしたいからです。
先程お話ししたように、バイオマスからは目的とするプロダクトが1割ぐらいしかできません。9割はゴミになる。それをゴミにしないで、畑の肥料や動物の飼料にしたい。そのためには、触媒が入っていると具合が悪いのです。
そこで我々は、熱と圧力で合成する方法を採っています。どのくらいの温度がいいのか、どのくらいの圧力がいいのかを探りながら研究を進めているところです。大体のメドはついて、実際にポリ乳酸もできているのですが、収率がややよくないので、その改善を進めているところです」
生分解性のメリットを生かし
弁当のトレーに活用
ポリ乳酸ができれば、それを原料にしてプラスチックをつくることができる。しかし、国眼先生は、よりすぐれた性能を持つプラスチックにする工程を加えている。それが複合材料化プロセスだ。これは、ただ生分解性プラスチックをつくるだけでなく、コンビニなどで使われる弁当のトレーをつくりたい、という目的があるからだ。
「弁当のトレーは、中味との分別が難しいため、最終処分場に埋められるケースが多くなっています。しかし、生分解性プラスチックなら中味と一緒に捨てても、分解されて自然に返すことができますから、1つの具体的な目標として弁当のトレーをつくれるようにしたいと考えているのです。
そのためには、強度や耐熱性などが必要になりますが、ポリ乳酸だけでは十分な性能を得られるとは限りません。そこで、複合材料にして十分な性能を持たせることをめざしているのです」
竹の粉とでんぷんを混ぜることで
耐熱性の向上が可能に
国眼先生がいま取り組んでいるのは、ポリ乳酸に竹の粉とでんぷんを混ぜて生分解性プラスチックをつくることだ。
すでに2006年夏には、耐熱性を従来よりも30度引き上げて150度にすることに成功。電子レンジでの使用に耐える180度まで、もう少しのところまできた。今後は、混ぜる割合や製造方法を検討して、耐熱性を引き上げていく計画だ。この研究成果は新聞でも報道されるなど注目を集めている。
強度については、触覚的には強くなったように感じられるものの、機械で試験すると従来と変わりないか、場合によっては少し弱いという結果が出ている。そこで、強度を高めるためにグラフト重合の研究を進めている。
「いまは、複合材料化といっても、ポリ乳酸の分子の横に竹の粉やでんぷんの分子が混ざっているだけの状態です。だから強度が弱い。そこで、もう1つ先の段階としてグラフト重合を考えています。
グラフト重合というのは、異なる分子をくっつけることです。つまり、ポリ乳酸の分子と竹の粉の分子、でんぷんの分子がつながった状態にするのです。そうすれば強度も増して、石油由来のトレーに負けない製品ができます」
複合材料化や性能評価の研究は
農学部とも連携
性能評価プロセスでは、分子レベルの構造、生分解性、熱的な性質(メルティングポイント、ガラス転移点、結晶化温度など)、強度、接触感などを評価している。たとえば接触感では、竹の粉の大きさによって、触った感じがかなり違ってくるのだという。なお、この性能評価と前記の複合材料化については、同大学農学部の研究室と共同で研究を進めている。
こうしたプロセスのうち、インドネシアでは発酵から合成まで、つまりポリ乳酸をつくるところまでを当面の目標にしているそうだ。もちろん、オンサイトで。そして、軌道に乗ればベンチャービジネスを立ち上げる構想もある。畑からできたプラスチックのトレーで弁当を食べる日がくるのも、それほど遠いことではないかもしれない。