研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第26回 Part.1

第26回 感動する商品の企画を産学協同で追求(1)
Part.1
お客さんがほしいものを探り
アイデアを出して検証

成城大学 経済学部
経営学科 神田 範明教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
公開:

食品、生活用品、衣服、家電、ICT機器、自動車など私たちのまわりには驚くほどたくさんの「商品」があり、こうした商品なしでは生活が成り立たない。そして、多種多彩な商品は、生活していくために必要というだけでなく、楽しさ、うるおいなどをもたらしてくれるものも少なくない。なかには、社会現象を引き起こしたり、生活文化を変えたりしていくような商品もある。では、そうした商品は、どのようにして生まれてくるのだろうか。今回は、成城大学の神田範明先生の研究室を訪ね、商品企画の研究について話を伺った。(Part.1/全4回)

▲神田 範明教授

神田先生は、独自の理論と手法をベースに企業との協同研究を進め、数多くのヒット商品、ロングセラー商品を世に送り出している「ヒットメーカー」でもある。まず、経営学における商品企画の研究の位置づけから教えていただくことにした。

「経営学は範囲が広い学問で、企業経営にかかわることすべてが対象になります。そのなかにマーケティングという分野があって、マーケット(市場)と関わる仕事全体を指します。それをさらに分けるとインプットとアウトプットがあります。

インプットというのは、市場から情報などをいただいて商品づくりにつなげていくものです。お客さんのニーズを探って、それを検討して、こういうものが売れるだろうという提案をする。これが『商品企画』です。

提案したものが社内で「良い」と認められたら、技術の方々が研究開発、試作などを進め、商品ができあがります。その商品を市場に出して、宣伝して売るのがアウトプットです。

つまり、商品企画は、商品づくりの最初の部分を担っていて、私はその商品企画の方法を30年近く産学協同で実践的に研究してきたのです」

商品企画は、大きく見ると3つのプロセスから成り立つという。

「商品企画は通常、『市場調査』から始めます。市場を見て、お客さんが何を考え何がほしいのかを探ります。手法はいろいろあり、商品をスーパーに納めている場合は、店長さんや担当の方に話を聞いたり、お客さんにインタビューしたりします。

あるいは、お客さんに集まっていただいて、会議とか座談会というかたちで、既存商品への不満点、困っていること、どういうものなら買いたいかなどを話していただくこともあります。

次が『アイデア発想』です。市場調査で得たデータを基に、どういう商品をつくればいいかというアイデアをたくさん出します。仮に30〜40件のアイデアが出たとしたら、技術的に難しいとか他社ですでに発売しているとかも調べたうえで、3〜4件ぐらいまで絞り込んでいきます。

3番目が『検証』で、たとえば、A、B、C、Dという4つの案について、再びお客さんの意見を聞きます。現在はWEBアンケートという手法が多いのですが、その結果、B案の評価が高ければ、B案のさらに具体的な内容を詰めて、最終的な提案を行います」

有名企業でも売れない商品が多く、
飲料で数年後に残るのは1000に3つ

こうしたプロセスを経た商品なら、いかにも「売れそう」だが、現実にはそうとは限らないらしい。

「実は売れない商品のほうが多いのです。私がこの研究に取り組むようになったのも、そこが疑問だったからです。有名な会社がなぜ鳴かず飛ばずの商品を出すのだろう、それは資源と労力と資金の無駄遣いになる、何かいい方法はないのか、と考えたのです」

神田先生は、売れない商品になってしまうのは、商品企画の3つのプロセスのどこかに問題があるからだと指摘する。

「3つのプロセスを完璧にやる企業さんはそうそう失敗しません。失敗する場合は、プロセス全部がダメというわけではなく、大体どこか1か所のプロセスに問題があります。たとえば、最初の市場調査でお客さんの本当のニーズが把握できていなかったというようなケースです。ほかのプロセスはしっかりしていても、どこか1つがダメだと全体がダメになってしまうのです」

そして、売れない商品が数多くつくり出される構図はいまも変わらず、むしろ現代ならではの問題も抱えているという。

「食品業界などはその傾向がとくに顕著です。たとえば、ドリンクの場合、毎年たくさんの新商品が登場しますが、数年後まで残る、ロングセラーになり得る商品は1000に3つしかなくて、99パーセント以上の商品は短期間に消えていくといわれています。

その理由の1つにPOS(ポイント・オブ・セールス)システム(販売時点で売り上げデータが記録されるもの)がほとんどのコンビニやスーパーで導入されていることがあります。

商品ごとの売れ行きがすぐにデータになってわかるので、1週間後ぐらいまでにあまり売れてないと、撤去されるのです。そうすると、すぐに次の新しい商品を入れないといけない。それができないと、商品を置く棚自体を同業他社に取られてしまう。このため、しっかり商品企画をする時間もないままに新商品を開発して、結局、その商品も売れないという状態に陥っているのです」

経験やひらめきに頼らない
「商品企画七つ道具」を開発

神田先生は、商品企画の研究に取り組むようになって、企業の商品企画は、個人の経験やひらめきに頼っていたり、技術的にはすぐれていても顧客ニーズと合っていなかったりという課題があることに気づき、そうした課題を解決するため、システマティックな商品企画の手法を開発した。

それは「商品企画七つ道具(略称P7)」というもの。P7のPはPlanningのことだ。

P7は、7つの手法から成るもので、「調査の手法」(潜在ニーズの発見・確認)として①インタビュー調査、②アンケート調査、③ポジショニング分析、「発想の手法」(創造的コンセプトへの変換)として④アイデア発想法、⑤アイデア選択法、「最適化の手法」(最適コンセプトの決定)として⑥コンジョイント分析、「リンクの手法」(研究・開発へのリンク)として⑦品質表、を提示した(内容は後述)。

このP7を多くの企業の前で発表したのは1994年のこと。

「企業さんからは、頭だけで考えたもので成功するのか、といった反応もありました。学者の遊びのように思われたのかもしれません。

そこで私は、P7の有効性を皆さんと一緒に検証したい、商品企画の協同研究をしませんかと呼びかけました。数社が私の提案に乗ってくださって、そこから協同研究がスタートしたのです。

実際に研究を進めていくと良い成果が出て、参加してくださる企業もどんどん増えていきました。これまでに協同研究をした企業は100社以上になります」

《つづく》

●次回は、Part.2『仮説発掘法を採り入れて、より新鮮な商品企画が可能に』です

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