大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート
第26回 Part.2第26回 感動する商品の企画を産学協同で追求(2)
Part.2
仮説発掘法を採り入れて
より新鮮な商品企画が可能に
経営学科 神田 範明教授
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食品、生活用品、衣服、家電、ICT機器、自動車など私たちのまわりには驚くほどたくさんの「商品」があり、こうした商品なしでは生活が成り立たない。そして、多種多彩な商品は、生活していくために必要というだけでなく、楽しさ、うるおいなどをもたらしてくれるものも少なくない。なかには、社会現象を引き起こしたり、生活文化を変えたりしていくような商品もある。では、そうした商品は、どのようにして生まれてくるのだろうか。今回は、成城大学の神田範明先生の研究室を訪ね、商品企画の研究について話を伺った。(Part.2/全4回)
2013年にはP7の「進化版」として、「Neo P7(新・商品企画七つ道具)」を発表している。
「時代の変化とともに、商品企画にもより新鮮なアイデア、よりユニークなアイデアが求められるようになってきました。従来のP7でも対応は可能なのですが、手法の流れを変えたほうがいいアイデアが出やすくなると考えて改訂したのです。
一番のポイントは『仮説発掘法』という手法を採り入れて最初に持ってきたことです。ただ、全体としての根本的な考え方自体は変わっていません」
神田先生に説明していただいたNeo P7の手法をまとめると次のようになる。
まず①仮説発掘法。これは、何十人かのお客さんに、日常生活、飲食、旅行などの写真と「こんな生活をしている」「こういうのが面倒」「このあたりが不満」といったコメントを組み合わせた『フォト日記』を作成して送ってもらう(日記といっても、1日~1週間までさまざま)。それを分析して、お客さんが何を求めているか仮説を立てる。これだけでも数十件の仮説が出るという。
小田急電鉄との協同研究では
1000件ものアイデアが
次に②アイデア発想法。これは企業の商品企画スタッフが自分たちでアイデアを考え仮説を追加するもの。神田先生によると、発想法は「まるでマジック」。簡単でも、知ったら驚くほどスピーディにアイデアを出せ、1時間で1人30件が「標準」だという。
「いままでで最もたくさんアイデアが出たのは小田急電鉄さんとの協同研究です。仮説発掘法とアイデア発想法で約1000件ものアイデアが出てきて、それを読むだけでも大変でした(笑)。学生も企業の方も一所懸命考えるので、平均でも1プロジェクトで200件ぐらいの仮説が出ます。それを検討して、10件単位まで絞り込んでいきます」
ここまでが「発想」というステップ。そのあとは「検証」を行う。その1つが③インタビュー調査。お客さんに集まってもらって絞り込んだ仮説を示し、意見を聞いたり、ディスカッションをしてもらう。これによって、仮説をさらに修正し、絞り込む。
そして、④アンケート調査を行う。これは、前述したように現在はWEBアンケートが中心。仮説案のいくつかを提示して評価点をつけてもらい、その結果を分析する。その代表的な手法が⑤ポジショニング分析。
「ポジショニングというのはグラフ上で商品の『位置』を決めるものです。たとえば、タテ軸に『利便性』、ヨコ軸に『ユニークさ』という代表的な要素を設定して、お客さんの評価を基に、仮説ごとに商品がどういう位置になるかを示します。
さらに『理想ベクトル』というものを入れます。これは、お客さんの評価のなかから、その商品がほしいかどうか点数化したものの全体的な方向を計算して導き出し、矢印(ベクトル)として表します。そうするとベクトルの示す方向にいくと、ほしいという度合いが高まり、その方向にある仮説が有力、といったことがわかるのです。このような理論的な手法で、これまでの商品企画の迷いやあいまいさから抜け出すことができました」
仮説を要素に分解して最適化する
コンジョイント分析
これで有力な仮説が2~3件に絞られる。それを「最適化」するのが⑥コンジョイント分析だ。
「コンジョイント分析では、仮説をいろいろな要素に分解します。たとえば栄養ゼリーなら、成分、味、形状、タイプ、価格などに分解して、さまざまな組み合わせをつくります。その組み合わせをお客さんに提示して点数をつけていただき、どの要素がどのくらい評価されているかという『効用値』を計算してグラフ化するのです。
そうすると、成分が一番効用値が高い、次が味といったことがわかり、しかもベストの組み合わせが自動的にわかり、売られたときの評価点数も発売前に正確に予測できます。これは会社にとって大変なメリットです」
コンジョイント分析を踏まえて、商品企画の最後のステップ「リンク」に入り、⑦品質表で技術部門との検討を行う。これは、商品として期待されていることと技術特性との関係を表で示すもので、技術部門が納得して商品をつくることができるように橋渡しをする。
「Neo P7で仮説発掘法とアイデア発想法を最初に持ってきたことによって、従来以上にたくさんの仮説が出るようになりました。仮説を100件出せば10件ぐらいは『これは売れそう』というものが出てきますから、良い最終提案につなげられる可能性も高まるのです」
《つづく》