研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第7回 Part.2

第7回 多様な惑星系の統一的な形成理論を追究(2)
Part.2
ダストが固まって微惑星になり
微惑星が衝突合体して惑星に

東京工業大学大学院
理工学研究科 井田 茂研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
公開:
 更新:

2006年8月、国際天文学連合総会で冥王星が太陽系の「惑星」から外されたことは記憶に新しい。教科書に載っていて、一般的には常識になっていることも、常に検証が行われ、新しい考え方が提示されるということだ。それは、もちろん1つの惑星に限ったことではない。太陽系全体、そして太陽系以外の惑星系(系外惑星系)についても、世界中で研究が進められ、次々に新しい事実が発見されたり新しい学説が発表されたりしている。そこで今回は、東京工業大学大学院理工学研究科(地球惑星科学専攻)の井田茂先生の研究室を訪ね、太陽系や系外惑星系について、どのような研究が行われているのか教えていただくことにした。(Part.2/全4回)

ダストが固まって微惑星になり
微惑星が衝突合体して惑星に

▲井田 茂 教授

前回は1995年に初めて太陽系以外の惑星(系外惑星)がみつかり、その後も次々に系外惑星が発見され、しかも、それらの姿は多種多様で、太陽系形成標準モデルを適用するだけでは説明がつかないというところまで話した。

では、太陽系形成標準モデルでは、どのようにして太陽系が形成されたと考えられているのだろうか。

太陽系の形成標準モデルについて井田先生に説明していただいた内容をまとめると、次のようなシナリオになる。

いまから46億年前、銀河を漂う星間雲(ガスや塵など)の密度の高い部分(分子雲コア)が、自分たちの重力で収縮し、中心に原始太陽が形成される。同時に、原始太陽を取り巻く円盤が形成される。分子雲コアは、最初はゆっくり回転しているが、収縮するにつれて回転が速まり、遠心力が効いて平たい円盤状になる。

この円盤は、98~99%が水素とヘリウムのガスで、ごく一部が固体成分の塵(ダスト)でできている。そのダストが少しずつ固まって1キロメートルから10キロメートルぐらいの微惑星が生まれ、微惑星同士がお互いの重力で衝突合体を繰り返し、固体の原始惑星がかたちづくられる。

円盤の外側のほうでは、太陽重力の影響が弱まるため微惑星をより多く集められることや、固体材料として氷が増えることによって、より大きな原始惑星がゆっくりとできる。その原始惑星は自身の重力でガスを引き付け、巨大ガス惑星(木星、土星)ができる。

さらに、その外側では、原始惑星の成長に時間がかかったためにガスが消失して、ガスをまとうことのできない巨大氷惑星(天王星、冥王星)ができる。

▼太陽系形成標準モデルの概略

横スクロールしてご覧ください

ダストが太陽に落ちないで
微惑星になれるかを検証

太陽系形成標準モデルの概略は上記のようなものだが、この理論には未解決の問題もいくつか残されていて、井田先生の研究室では、その問題の解明に取り組んできた。なかでも重大なテーマとして、「ダスト落下問題、微惑星形成問題」と「惑星落下問題」があるという。そこで、まず「ダスト落下問題、微惑星形成問題」のポイントを教えていただくことにした。

「ダストから微惑星がつくられるといいましたが、本当にダストがくっついてキロメートルサイズの微惑星になれるのか、という疑問があります。

というのは、小さなダストはガスと一緒に太陽の周りを回り、微惑星になるとガスと関係なく回るようになります。しかし、ダストがメートルサイズの塊の状態では、ガスとの摩擦で回転する勢いを失って、次々に太陽に落ちていってしまう。そうなると微惑星はできず、惑星もできません」

これについて標準モデルでは、ダストはメートルサイズを一気に飛び越して(実際には1~10年程度かかるが、太陽系形成過程のなかでは一瞬の出来事)キロメートルサイズの微惑星が無数にできるという考え方が提示されている。

ただ、この説には異論もある。観測によって、円盤のなかは乱流状態で、渦巻いているようなところがあることがわかっている。そういう状態で、ダストが集まって固まることができるのか、という指摘だ。この疑問について、井田先生は次のように考えている。

「渦巻いているからダストが集まれない、という単純なものではないと思います。渦巻いているような円盤には、どこかに淀みがあるのではないか。空間的にまだら模様になっていて、ダストが集まってくるような場所があり、そこで微惑星ができるのではないかと考えています。

しかし、現時点では望遠鏡の分解能の限界があり、そうした理論を裏づけるデータを得ることができません。いま、日米欧が共同で、チリのアタカマ高地に電波望遠鏡群を建設していて、それが完成すれば詳細な観測が可能になるので、ダスト落下問題、微惑星形成問題も大きく進展することが期待できます」

【用語解説】 『デジタル大辞泉』小学館(//kotobank.jp/dictionary/daijisen/)より引用

*惑星系(わくせいけい):
恒星、およびその引力によって運行している天体の集団。太陽系以外の恒星にも惑星が存在することが明らかになり、太陽系は太陽を中心とする惑星系の一つと見なされている。中心天体が恒星ではなく、中性子星や白色矮星という例も知られる。

*太陽系(たいようけい):
太陽、およびその引力によって太陽を中心に運行している天体の集団。水星・金星・地球・火星・木星・土星・天王星・海王星の8個の惑星とその衛星、さらに準惑星・太陽系小天体(小惑星・彗星や流星物質・ガス状の惑星間物質など)からなる。海王星のさらに外側を回る冥王星は、長く惑星とされていたが、2006年に国際天文学連合により新たに準惑星に分類された。

*恒星(こうせい):
太陽と同様、自ら熱と光を出し、天球上の相互の位置をほとんど変えない星。

*惑星(わくせい):
恒星の周囲を公転する、比較的大きな天体。国際天文学連合はこのほか、自己重力のため球形であることと、公転軌道近くに衛星以外の天体がないことを惑星の要件としている。太陽系では太陽に近い順に、水星・金星・地球・火星・木星・土星・天王星・海王星の八つがある。海王星の外側を回る冥王星も長く惑星とされていたが、2006年に同連合によって新たに準惑星に分類された。遊星。

《つづく》

●次回は「私たちが住んでいる地球は何世代目かのもの」です。

新着記事 New Articles