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第7回 Part.4

第7回 多様な惑星系の統一的な形成理論を追究(4)
Part.4
月が巨大衝突でできたことを
世界で初めて理論的に証明

東京工業大学大学院
理工学研究科 井田 茂研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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2006年8月、国際天文学連合総会で冥王星が太陽系の「惑星」から外されたことは記憶に新しい。教科書に載っていて、一般的には常識になっていることも、常に検証が行われ、新しい考え方が提示されるということだ。それは、もちろん1つの惑星に限ったことではない。太陽系全体、そして太陽系以外の惑星系(系外惑星系)についても、世界中で研究が進められ、次々に新しい事実が発見されたり新しい学説が発表されたりしている。そこで今回は、東京工業大学大学院理工学研究科(地球惑星科学専攻)の井田茂先生の研究室を訪ね、太陽系や系外惑星系について、どのような研究が行われているのか教えていただくことにした。(Part.4/全4回)

『ネイチャー』誌に研究成果を発表

井田先生は、月にも着目し、月がどのようにして形成されたのかをシミュレーションで明らかにしている。

月はもっとも身近な天体だが、その起源がわかってきたのは最近のことだそうだ。月の起源については、古典的な説が3つあった。それは、(1)原始地球が形成されるときに高速回転して、遠心力で外層部がはがれて月ができたとする「分裂説(親子説)」、(2)地球の連星として微惑星から集積したという「共成長説(姉妹説)」、(3)近くで微惑星から集積した月が地球のそばを通過するとき捕まったとする「捕獲説(他人説)」の3つだ。

しかし、いずれの説も1970年代後半までに否定され、その後「巨大衝突説」が登場した。これは、原始地球に火星ぐらいの大きさの原始惑星が衝突し、その原始惑星が破壊されて撒き散らされた破片から月が集積された、というものだ。ただ、井田先生は、巨大衝突説には懐疑的だった。

「巨大衝突によって破片が散らばるにしても、木星や土星のように小型の衛星が複数できるのではないか、都合よく1つにまとまって月のような大型の衛星ができるのだろうか、と思いました。それで、巨大衝突説を否定的に検証するつもりでシミュレーションに取り組んだのです」

ところが、思わぬ結果が待ち受けていた。シミュレーションの結果、実に簡単に月ができてしまうことがわかったのだ。

原始地球に衝突した別の原始惑星は、破片となって地球の周囲に円盤を形成する。しかし、地球中心から地球半径の約3倍以内の「Roche(ロッシェ)限界」と呼ばれる領域では、地球の潮汐力(物体の近い側と遠い側に働く重力の差によって物体を引き伸ばす力のこと。潮の満ち引きは月の潮汐力によって起きる)が破片同士の重力より大きいため破片同士はくっつくことができず、天体は集積されない。

シミュレーションでは、破片の大部分はロッシェ限界内に飛び散って円盤になる。このままでは月はできない。しかし、円盤は渦巻状になり、円盤外部に筋のように伸びる部分から破片がロッシェ限界の外に振り飛ばされる。

ロッシェ限界の外では、破片同士が重力でくっついて月の「種」ができる。その「種」はロッシェ限界の外に飛ばされてくる破片を次々に捕まえ、やがて月ができる。しかも、月ができる時間は、わすか1か月から1年であることも明らかになった。

この研究成果は『ネイチャー』誌に発表され、巨大衝突説に世界で初めて理論的根拠を与える業績となった。

▼「月の起源」
CG制作:三浦均氏(武蔵野美術大学)、数値計算:小久保英一郎氏(国立天文台)

共同体として知識を積み重ねる
基礎科学研究のおもしろさ

幅広い視点で惑星系形成の研究を進めている井田先生だが、基礎科学研究の魅力、おもしろさとはどのようなものなのかをうかがってみた。

「基礎科学は、すぐに社会に役立つというものではないかもしれませんが、人類にとって進化のモチベーションになっているものだと思います。

そういう基礎科学の研究では、自分が知らなかったことがどんどんわかってくるところが魅力ですね。それによって、自分の視野がどんどん広がっていきます。それは、自分個人の問題にとどまりません。科学は共同体としての知識の積み重ねですから、自分の視野が広がれば、それはほかの人に伝わり、ほかの人の視野が広がれば、それは私に伝わります。

とくに、私がかかわっている分野は非常に進展が早く、新しいデータや新しい考え方が次々に出てきますが、いまは、インターネットが発達しているので、そうした情報をリアルタイムで発信したり収集したりすることができます。そうして世界中の、ライバルであり同志でもある研究者の考えていることをリアルタイムで知り、そこに自分も加わって、全体としていろいろなことがわかっていく。そこが非常におもしろいですね」

情報のやりとりは、インターネットを介してのものだけではない。井田先生は今年の夏だけでも、ギリシャ、アメリカ、フランスを飛び回り、ライバルであり同志でもある研究者と情報交換をしたり議論をしたりしている。

そうした世界レベルでの研究者との交流や観測チームとの連携なども踏まえて、井田先生のめざす統一的な惑星系形成理論が、これからどのように進展していくのか、大いに注目される。

▼太陽系の主要天体の直径と質量
出典:フリー百科事典『ウィキペディア』“太陽系” 2007年10月21日(日)12:07-UTC版から引用(//ja.wikipedia.org/)

【用語解説】 『デジタル大辞泉』小学館(//kotobank.jp/dictionary/daijisen/)より引用

*惑星系(わくせいけい):
恒星、およびその引力によって運行している天体の集団。太陽系以外の恒星にも惑星が存在することが明らかになり、太陽系は太陽を中心とする惑星系の一つと見なされている。中心天体が恒星ではなく、中性子星や白色矮星という例も知られる。

*太陽系(たいようけい):
太陽、およびその引力によって太陽を中心に運行している天体の集団。水星・金星・地球・火星・木星・土星・天王星・海王星の8個の惑星とその衛星、さらに準惑星・太陽系小天体(小惑星・彗星や流星物質・ガス状の惑星間物質など)からなる。海王星のさらに外側を回る冥王星は、長く惑星とされていたが、2006年に国際天文学連合により新たに準惑星に分類された。

*恒星(こうせい):
太陽と同様、自ら熱と光を出し、天球上の相互の位置をほとんど変えない星。

*惑星(わくせい):
恒星の周囲を公転する、比較的大きな天体。国際天文学連合はこのほか、自己重力のため球形であることと、公転軌道近くに衛星以外の天体がないことを惑星の要件としている。太陽系では太陽に近い順に、水星・金星・地球・火星・木星・土星・天王星・海王星の八つがある。海王星の外側を回る冥王星も長く惑星とされていたが、2006年に同連合によって新たに準惑星に分類された。遊星。

井田 茂(いだ しげる)
1960年生まれ。京都大学理学部卒業。東京大学大学院地球物理学専攻修了。理学博士。1993年から東京工業大学理学部地球惑星科学科助教授。2006年から現職。この間、1995年から1997年までカリフォルニア大学サンタクルーズ校、コロラド大学ボルダー校で客員研究員。主な著書に『惑星学が解いた宇宙の謎』(洋泉社)『異形の惑星』(日本放送出版協会)『一億個の地球』(共著/岩波科学ライブラリー)『系外惑星』(東京大学出版会)などがある。

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