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第17回 Part.1

第17回 ウェアラブル技術で健康危機管理を実現(1)
Part.1
危機管理・安全科学技術研究部門とは

東京理科大学 総合研究機構
危機管理・安全科学技術研究部門 板生 清教授
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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私たちが何気なく過ごしている日常には思わぬ危険が潜んでいる。災害、事故、病気などは、いつ誰の身に起きても不思議ではない。また、今年の夏も熱中症の多発がニュースで伝えられたように、毎日の生活のなかでも健康面の危険にさらされる可能性がある。学問の世界でも、そうした時代の要請も踏まえながら、危険を回避したり適切な対処をしたりするための危機管理についてさまざまな研究が進められている。そこで今回は、危機管理の研究に取り組んでいる東京理科大学総合研究機構の危機管理・安全科学研究部門において、主に人間の健康危機管理を研究している板生清先生を訪ね、研究の背景や内容、成果の実用化などについて話を伺ってみた。(Part.1/全4回)

さまざまなジャンルの専門家が
危機管理の技術を分野横断的に追究する組織

▲板生 清教授

危機管理・安全科学技術研究部門は、2008年10月に設置されたものだが、どのような目的で設置されたのだろうか。

「危機管理・安全科学技術研究部門は、学問でいえば物理、化学、数学など、教育組織でいえば学科や大学院の研究科など、いわゆるタテ型の組織ではなく、分野横断的にさまざまなジャンルの専門家が共同で研究するヨコ型の組織です。

設置の目的は、現代社会でますます重要になってきている危機管理について幅広い研究を行い、その成果を社会実装、つまり社会のなかで実現していくことです。

こうした研究にはさまざまな分野が関係してくるため、火災科学、リスク工学、免疫学、機械工学、教育学・脳科学、通信・ネットワーク工学など学内のさまざまな分野の研究者12名を中心に、学外からも弁護士、医師、経済産業省課長、情報通信研究機構研究者、東京大学環境学系教授など15名の研究者や専門家を招いて研究を進めています」

同部門には5つの部会がある。それは、企業リスクマネージメント部会、国民生活リスクマネージメント部会、コーポレートコンプライアンス部会、人間の安心安全部会、自然・人工物・環境安全部会だ。

板生先生は部門長であり、各部会を統括する立場にあるが、ご自身の研究活動の場は人間の安心安全部会が中心になっている。

「人間の安心安全部会は、地球環境や社会環境が悪化していくなかで健康危機が叫ばれていることを踏まえ、安心安全や健康な生活を実現していくための技術を追究しています。

もう少し具体的にいうと、人間の生体情報をセンサーによってキャッチし、その情報を分析することで健康危機管理につなげていく研究がメインになっています」

自然・人間・人工物の調和をめざす
「ネイチャーインタフェイス」という考え方

板生先生の研究の根幹には「ネイチャーインタフェイス」という考え方と「ウェアラブル・インフォメーション・システム」という技術があるそうだ。それぞれどのようなものなのかポイントを教えていただくことにしよう。

「ネイチャーインタフェイスは私が20年前から提唱しているものです。地球上には大きく見ると自然、人間、人工物という3つの世界があります。そして、それぞれが接する界面(境界面)をインターフェイスといいます。

たとえば、人間と人工物の関係を見ると、人間は機械や建造物などの人工物を次々につくり出し、人間にとって都合のいいもの、扱いやすいものにしようとしてきました。

人間と自然の関係は、人間が自然に手を加えたり破壊したりしながら、コンクリートの塊のような人工物やCO2のような人工物をつくり続けてきました。これではいい関係とはいえず、結果的に環境問題が引き起こされています。

人工物と自然との関係は、人工物が少ないうちはそれほど問題はなかったかもしれませんが、とくに20世紀以降は人工物が増え、自然に悪影響をおよぼすようになりました。

こうした状況がそのままでいいわけはありません。そこで、自然、人間、人工物の3つの界面を低くする技術によって、それぞれがうまく情報を共有しながら、協調し存在できる世界にしていきたいというのがネイチャーインタフェイスの基本的な思想なのです」

《つづく》

●次回はネイチャーインタフェイスを実現していくための技術「ウェアラブル・インフォメーション・ネットワーク」についてです。)

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