大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート
第19回 Part.2第19回
ICTを教育や国際交流に活用する ~修学旅行をより楽しく~(2)
Part.2
ICTで社会とつながる修学旅行
経済学部 佐藤 文博教授
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ICT(情報通信技術)は、私たちの生活や社会に不可欠なものとなり、その進化のスピードも驚くほど速い。次々と新しいハードやシステムが登場し、わずか2~3年前のものが「ひと昔前」のものに感じられることも珍しくない。それと同時に、ICTをどう使いこなすのか、さまざまなジャンルにどのように応用していくのかも問われている。学問の世界でも、ICTそのものの研究だけでなく、ICTを教育や国際交流をはじめさまざまなジャンルに活用する研究が進められ、注目を集めている。そこで今回は、中央大学経済学部・佐藤文博先生の研究室を訪ね、海外との遠隔授業や、修学旅行のために開発したスマートフォン用アプリケーションなど、ICTを活用する研究について話を伺ってみた。(Part.1/全4回)
社会とつながる修学旅行に着目
民家泊の安全基準を作成
中央大学経済学部・佐藤文博先生の研究室を訪ね、海外との遠隔授業や、修学旅行のために開発したスマートフォン用アプリケーションなど、ICT(情報通信技術)を活用する研究について話を伺っている。今回は、修学旅行とICTについて伺ってみよう。
佐藤先生は、学校と社会とのつながりを実現する場の1つとして修学旅行にも着目。2006年から研究室として「楽しい修学旅行研究会」を主宰し、さまざまな活動を展開している。
「修学旅行は、生徒が社会とつながりを持つ場としても重要な役割を果たしています。その修学旅行を、社会と一体となった教育の一環としてより充実させていく方法を探るために研究会を立ち上げたのです」
この研究会は、財団法人全国修学旅行研究協会(会員は全国の学校)、旅行会社、自治体、出版社、通信事業者、コンテンツ制作会社などがメンバーになっている。研究会には、M(モバイル)-ラーニング分科会と民泊分科会があり、M-ラーニング分科会では後述する修学旅行用アプリの開発などに取り組んでいて、民泊分科会は民家に宿泊する修学旅行のあり方などを検討している。
「修学旅行で民家泊をしている生徒は全国で9万人ぐらいいるといわれています。そのうちの3万人が沖縄の伊江島という人口5,000人の島で民家泊をしています。伊江島には高校がなく、子どもたちは中学校を卒業すると沖縄本島に住んで高校に通うので、子どもの部屋が空くのです。そういう部屋を利用して修学旅行生を受け入れているのですが、訪れた生徒は受入先の人と本音で話ができたりするため評判がよく、それが口コミで広がって人気を集めているのです」
ただ、こうした民家はホテルや旅館などのような法的規制がないため、非常時の危機管理など安全対策が課題になっているのだそうだ。そこで、佐藤先生は民家泊の安全対策を検討することにした。
「病気になったりケガをしたときや、火事などが発生したときにどう対応すればいいのか。それを考えるため、2007年度から3年間、ゼミ生と一緒に現地で民家の実態調査に取り組み、その結果を集計分析して、2010年度には民家泊の安全基準マニュアルを作成しました。これは、伊江島の現状に合う実施可能なガイドラインになっています」
携帯電話を利用して修学旅行でオリエンテーリングを
研究会のM-ラーニング分科会では、ICTを活用することで、学習という側面を持ちながら、より楽しく充実した修学旅行を実現するための取り組みを進めている。その取り組みのなかで佐藤先生は中学生や高校生にも普及している携帯電話に着目。ICT端末の一種である携帯電話を利用することによって、修学旅行のなかにオリエンテーリングの要素を加える研究を講師の平松裕子先生と行っている。
「修学旅行では班行動を設定することが多くなっています。ただ、班行動では、事前学習、現地での行動、事後学習をうまくつなげることが難しいケースがあったり、行動が班単位にとどまってしまって、ほかの班と体験を共有できなかったり、クラスとしての一体感が得られなかったりということもあります。
そこで、携帯電話を使ったスタンプラリーのようなオリエンテーリングを班行動に取り入れることを考えたのです。たとえば、2時間の班行動を設定して何か所かの目的地を班ごとに回り、それぞれの目的地ごとに携帯電話で出題されるクイズをクリアしながらゴールをめざす。たんに見て回るだけでなく、クイズに解答することを通じて、その目的地をより深く理解したり、地域の人とふれあったり、班ごとに得点を競い合ったりできるようにして、修学旅行をより楽しく、内容も充実したものにすることをめざしているのです」
こうした考えのもと佐藤先生は、中学・高校の修学旅行用に、クイズに答えながら地域を巡るオリエンテーリングのアプリ「スタスタeye」を開発した。基本的なしくみは、班行動のときにサーバーとなるパソコンと携帯電話との情報通信機能を使ってクイズの出題や解答を行うものだ。
佐藤先生は、2007年から通常の携帯電話を使用して、深川、鎌倉、浅草で実証実験を行い、参加者の好奇心を刺激するものであるという手応えをつかんだ。そして、2012年には内容をさらに充実させるため、スマートフォン用「スタスタeye」を開発した。
「アプリのシステム部分は、宇都宮大学大学院工学研究科の渡辺裕教授のご協力で、渡辺研究室の大学院生に開発していただきました。コンテンツなどは私の研究室が担当し、ゼミの学生が実証実験を前提にしたクイズやその解答、解説などを作成しました」
《つづく》
●次回は、『スマホアプリで修学旅行の事前学習も深まる』です