高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第31回

第31回
キャリア教育実践レポート
「愛知県のキャリア教育推進校」Part.1
愛知県教育委員会高校教育課に聞く
「インターンシップを普通科高校にも拡大中」

インタビュー
愛知県教育委員会 高等学校教育課
荻原 哲哉 課長補佐
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
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自動車産業をはじめモノづくりが盛んで、産業立県ともいえる愛知県。県教育委員会では時代の進展に対応した職業教育に力を入れて取り組んでいる。その1つが「キャリア教育推進モデル事業」である。この事業では、普通科高校を含めた県立高校85校でインターンシップを実施。他にも他県にはない独自の施策を展開している。同県の取り組みについて、教育委員会高等学校教育課の荻原哲哉課長補佐に伺った。

キャリア教育推進モデル事業を展開 
推進校85校のキャリア教育の充実を図る

愛知県では多くの高校生が勤労観・職業観、そして主体的な進路選択のできる能力・態度を身につけ、学校教育から職業生活へ円滑に移行できるよう、キャリア教育推進モデル事業を展開し、推進校85校のキャリア教育の充実を図っています。この事業は、推進校のインターンシップを進めるとともに、さらに12校において、高校3年間の系統的なキャリア教育の推進方策を2年間調査研究してもらっています。

また、各高等学校のキャリア教育担当者(進路指導担当など)を対象に有識者による講演を開催するなど、先生方にキャリア教育への意識を高めてもらっています。

中学・高校時代に社会と出会い 
長い人生の道筋を考えておくことは有益

現在、全国的に高卒就職者のうち約5割が、3年以内に離職する傾向があるようですが、愛知県では約4割に留まっています。

これは、就職先となる企業の研修体制や福利厚生がしっかりしていることもありますが、中学校からの職業体験が充実しているなど、早期から職業意識を育てていることもあるのではないかと思います。

ちなみに愛知県では、名古屋市を除くほぼ100%の公立中学校で、5日間程度の職場体験を実施しています。やはり、5日間あると生徒も企業に溶け込み、見学から実践、そして、自分が社会に役立つ感動も得られるようです。高校では、中学校ほど地域との結びつきが強くないこともあり、3日間程度のインターンシップが主流になっています。

「キャリア教育=就職者が多い専門高校で実施するもの」というイメージが根強くありますが、それを払拭し、進学校でも推進していかなければならないと考えます。大学卒業後、約6人に1人が就職もせず進学もしていないという調査結果も見られるからです。

大学全入時代にあって、何となく大学に進学し、中退してしまったり、就職意識が高まらなかったりする学生も多いようです。たとえ進学希望であっても、中学・高校時代に社会と出会って、長い人生の道筋を考えておくことは有益です。

「知と技の探究教育推進事業」など独自の試みも 
社会と出会う機会を少しでも多く

愛知県独自のキャリア教育の取り組みとしては、「知と技の探究教育推進事業」があります。

「知の探検講座」は、夏季休業中と2学期の土曜日に合計100時間程度で、6講座を用意しています。定員は100名と限られますが、「現代の生命科学」(名古屋大学)や「地球と宇宙の探究」(愛知教育大学)、「次世代ロボット創出プロジェクト」(豊橋技術科学大学)など、大学の先進的な研究内容に触れられるとあって知的好奇心の強い高校生に好評です。

また、「技の体験講座」は、7月~12月まで18日間程度、約40人が参加できるものです。工業高校の生徒を中心に基礎技能研修として産業現場の見学・体験ができます。機械系モノづくり基礎・基本では(株)豊田自動織機と(株)デンソー技研センターなどに、電気の基礎・基本では中部電力(株)、(株)トーエネック、アイシン精機(株)などに協力していただき、第一線で活躍する技術者から、じかに教えてもらう場となっています。

こうした試みにより「技術が身に付き学校での実習が楽しくなった」などの生徒の意見も寄せられています。

一定条件以上の資格等を取得した生徒を
知事が顕彰する制度も

愛知県のもう1つの特色として「高等学校職業教育技術認定事業」があります。これは1982(昭和57)年度から26年もの伝統があります。

顕彰制度は、在学中に国や公的機関等が実施する、274種(08年度)の職業資格試験や検定試験等から、一定条件以上の資格等を取得した生徒に対して知事が顕彰するというものです。また技術検定制度は、検定基準を県独自で定め、これに合格した生徒に知事が合格証書を授与します。顕彰者数は毎年7,000名以上、検定合格者数も3,000名以上に上ります。

賞状を授与されることで、自分のやってきたことが認められたと思う生徒も多く、励みとなっています。また資格をめざして学ぶことで、自分の進路を真剣に考える機会となっています。

2007年度から、さらに「愛知版クラフトマン21推進事業」も実施しています。これは西三河地区にある鶴城丘高校と碧南工業高校、岡崎工業高校の3校が、それぞれの地域の産業界と連携して生徒の企業実習や企業技術者による学校での指導などを行います。

本県の自動車産業や機械産業を支える産業界の技術の継承、地域産業界に貢献する技術者や後継者となる人材を育成しようとするものです。

キャリア教育推進モデル事業の中で
「愛知版デュアルシステム」研究指定も実施

本県では、キャリア教育推進モデル事業の中で「愛知版デュアルシステム」研究指定も実施しています。

現在、フリーターやニートといった若者増加の背景には、自分にピッタリ合うしごとがあるはず、という思いが逆にプレッシャーになっている部分もあるようです。しごとは「探す」のではなく、「出会う」のが理想との意見もあります。本県は、今後も高校生に、社会や職業と出会う機会をさまざまな形で設けて、勤労観・職業観を育成する取り組みを推進していきたいと思います。

また情報収集から発表まで一通り自分たちで行うことで、達成感を感じる生徒も多く見受けられます。ただ一度だけの職業研究ではなく、社会に対する問題意識によって常に職業観が試される必要があり、それを第2学年の「学問研究」、第3学年の「卒業論文作成」の取り組みにつなげています。

日本版デュアルシステムとは

日本版デュアルシステムとは、「働きながら学ぶ、学びながら働く」ことにより、若者を一人前の職業人に育てる新しい職業訓練システムのこと。厚生労働省の日本版デュアルシステムは、2004年からスタートした。具体的には、企業における実習訓練と教育訓練機関における座学(企業における実習訓練に関連した内容)を並行的に実施する。いわゆるニート・フリーターの就業支援として始められたもので、職業訓練の性格が強い。ただし、実施主体によってその仕組みは異なる。

愛知県の2008年度キャリア教育推進モデル事業

1. 目的
普通科の生徒を含む、より多くの高校生が勤労観・職業観、主体的な進路選択のできる能力・態度を身につけ、学校生活から職業生活への移行が円滑に行われるようキャリア教育の充実を図る。
2. 内容
(1)インターンシップの拡充
 ・キャリア教育推進会議の開催
 ・地域推進会議の開催
 ・インターンシップの実施(一部の普通科を含めた県立高校85校で実施)
(2)キャリア教育の拡充
 ・キャリア教育推進のための研究指定(県内14地域から12校を指定、2年間調査研究)
 ・フォーラムの開催
 ・「愛知版デュアルシステム」研究指定(専門高校での導入を研究)
3. 就業体験推進校(14地域 85校)

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