全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介
第85回第85回
高校教育最前線ルポ(神奈川県横浜市)
聖ヨゼフ学園中学・高等学校
「グローバルな時代に、「共学化」へ舵を取る。
密度の濃い教育で、さらに発信力ある学園へ」
密度の濃い教育で、さらに発信力ある学園へ」
学校法人アトンメント会 聖ヨゼフ学園中学・高等学校
進路指導部部長・英語科 佐藤 陽子 先生
公開:
横浜市鶴見区の高台に位置し、カトリックの教えを基にする聖ヨゼフ学園。1953年に小学校、57年に中学校、60年に高校が開設され、66年の伝統を誇る。1学年2クラスの少人数で家族的な校風のもと、宗教行事も活発に行われている。中高は女子校として歩んできたが、2020年の中学入学者から男女共学化が決定。社会状況の変化に対応したもので、男女とも小中高12年間一貫教育体制を目指す。高校は2コース制のもと英語や国語の言語教育、理科の実験も重視し、プロジェクト型課題学習を通して論理的思考力と表現力を養っている。生徒一人ひとりの個性や希望する進路にきめ細かく対応しながら、共通テスト対策やグローバル教育に力を入れているのも特徴だ。同校の進路指導部長の佐藤先生に、取り組み内容や今後の展望を聞いてみた。
「信・望・愛」を校訓としてカトリックに基づく教育を実施
世界的評価の高い国際教育の導入も視野に
本校はカトリックのミッションスクールとして66年の歴史と伝統を誇ります。「信・望・愛」を校訓として掲げ、特に自分自身を大切にすることが人間的な成長への第一歩と捉え、自分の個性や才能に気づき、与えられたいのちに感謝、その想いを大切にしながら隣人への愛に高めていくことを目指しています。
教科に留まらずミサや他の宗教行事、学年ごとに行われる修養会や生命尊重学習会、宗教の授業はもちろん、総合的な学習の時間、生徒会活動、学級活動を通して「自分とは何か」を問い続けます。また、キリスト教的な価値観に基づいたキャリア教育や、さまざまなボランティア活動によって社会との関りを認識し、他者への愛、世界の人々とのつながりを大切に育てています。
学園トピックとして、2020年4月の中学校入学者から「共学」に移行することが決まりました。
急速なグローバル化や少子高齢化、価値観の多様化が進む時代に、世界に羽ばたいていくには男女が中高6年間を共に過ごす教育的意義は高いと判断。併設の小学校では従来から男子を受け入れており、「中学・高校でも学ばせたい」と保護者からの要望もあり、生涯学び続ける人、人々の真の平和と幸福を創り出す人を育てていこうと方針が定まりました。
高校は2023年から共学化の予定です。ちなみに2018年1月に、併設の小学校が日本で初めて国際バカロレア(IB)初等教育プログラム(PYP)認定を受けました。さらに中学校においても、中等教育プログラム導入を検討中で、共学化とともにグローバルスタンダードといえる教育を推進していこうと考えています。
英語4技能や国語の言語技術、理科の実験も重視、
共通テストにも活きる思考力・表現力を養う
聖ヨゼフ学園は中高とも、一学年約50人・2クラス規模の少人数制のもと、アトンメント(和解と一致)を目指す精神を大切に、他者との間に信頼に基づくコミュニケーションをつくり出すことをさまざまな活動の場で学ばせています。
教科学習では、主体性を持った人格形成には「言語」の教育が重要な役割を果たすという認識のもと、創立当初から現在まで英語・国語の言語教育に力を入れています。
また理科好きな生徒や探究心を育てたいという思いから、中学段階から理科の実験を重視しており、中学生は「科学の甲子園ジュニア」高校生は「科学の甲子園」神奈川県予選にも毎年エントリー。2016年の第6回大会では高1生チームが実験系実技競技で1位を、2018年の第6回大会では、中1・2生チームが実技競技部門3位、総合順位6位を獲得しました。男子生徒が多く参加する中で大健闘しています。
これは理科の先生方が実験やフィールドワークを大切に教育し続けていること、また生徒も主体的に学ぶことで考える力やチームワークがついていることの成果だと思います。
高校では2017年度から「総合進学コース」と「アドバンスト・イングリッシュ(AE)コース」の2コース制を導入しました。
総合進学コースは自己の進路に応じて自由に科目を選択し、志望進路をかなえる力を身につけます。2年生から文系・理系に分かれるほか、英語力のレベルによりAEコースの授業を一部履修することも可能です。また大学と連携した特別講座を開設し、幅広い教養や専門的な知識を得ることもできます。
AEコースは「自分の意見を持ち、それを英語で表現する生徒」の育成を目指し、隔週で土曜日も授業を行っています。特に「話す・書く」の発信型の能力を伸ばすため、「コミュニケーション英語」「英語会話」の必修科目に「Advanced English」を加え、週10~11時間の英語科目を履修。
また日本人教員とネイティブ教員のTTのもと、あるテーマやトピックについて自ら考え、書籍やインターネットを使ってリサーチ。さらにPowerPointを駆使して発表原稿を書き、プレゼンテーションを実施。そして内容の振り返りまで行います。
英語会話と合わせて年間30本以上エッセイを書き、年間20回以上プレゼンテーションを行うので、論理的思考力や表現力が養えます。その過程で生徒同士が教え合うことも多く、共同作業を通して積極性や協働性も育まれます。一方で語彙や文法も小テストを繰り返し、基礎力もしっかり養っています。
英検をはじめGTEC(スコア型英語4技能検定)の受検にも力を入れており、中学3年段階で英検準1級、高校3年で英検1級を取る生徒もいるなど、合格率も年々高まっています。
他にも両コース共通として、国語は言語技術や『論理エンジン』、『クリティカル・シンキング』を大切に思考力と表現力を強化。
これは英語を書く力・話す力を伸ばすこととの相乗効果にもなっています。また数学も習熟度別による少人数クラスで基礎力の定着と応用力の向上、グループワークを取り入れての多面的・多角的な思考力の育成、記述問題の解答の個別添削なども行っています。
2020年度からの共通テストは英語4技能や記述式が重視されますが、本校が先駆けてやってきたこれらの取り組みは、受験の際にも大きなアドバンテージになるでしょう。
推薦・AOはもちろん一般入試もきめ細やかに対応、
多様な進路を複数の教員が手厚くバックアップ
高校段階でも生徒が一部外部から入学してきますが、少人数ですのですぐに溶け込み、教員もすべての生徒の顔と名前が一致します。
また19時までは図書館を学習室として利用でき、職員室の前にも広い机を設置。教員がいつでも質問を受ける体制があり、学校にいながら教科ごとにマンツーマンの家庭教師やコーチがついているような、まさにオーダーメイド型の学習環境が自慢です。
本校卒業生の進路は、四年制大学から短期大学、専門学校、留学と多岐にわたります。今春は四年制大学進学率が84%に達し、難関大学にも多くの合格者を出しています。東京大学を始め、早慶上智、MARCHやキリスト教系の大学に進学する生徒が多く、また、先に述べたように、理科の実験やサイエンスクラブの活動も活発なため、医歯薬系に進学する生徒が増えました。
本校は一般入試を目指す生徒が5割、その他指定校推薦や一般公募推薦、AO入試を目指す生徒が5割です。一般入試で難関大に挑戦する生徒には、いつでも生徒の質問に対応できる体制を取っており、一人ひとりの特性や希望をふまえた効果的な教科指導を行うと共に、長期休暇には大学入試対策も入念に行っています。
本校はまた過去の実績からカトリック系女子大への指定校推薦枠も多く、創立時に協力を得たつながりで白百合女子大学とは姉妹校推薦枠があります。これら推薦入試やAO入試に向けては、3年次の早期から出願校に対応した志望理由書の添削指導、小論文対策、模擬面接など、これまで蓄積してきた過去のデータに基づき、複数の教員が個別に手厚く指導しています。
高校1年から夏休みはオープンキャンパスに3校以上参加を課して、進路選択の参考にしています。宗教の時間や修養会で直接神父様から聖書の言葉や世界の宗教を学んだり、地域の子ども園でボランティア活動を行ったりすることもあるせいか、生徒は「人や社会に直接役立つ」仕事を希望する傾向が強くあり、これは近年医歯薬系への志望者が増えていることとも無関係ではないでしょう。
また、本校では海外留学・語学研修として、イギリス語学・文化研修とローマの旅(14日間)、ニュージーランド留学プログラム(10週間)などを設けていますが、それ以外にも長期留学を希望する生徒が増える傾向もあり、語学力アップや国際的活躍への意欲の高まりが見られます。
少人数だからこそ教員と生徒との結びつきは緊密で、教科や行事、部活動を通じて家族のような一体感が持てるのは本校の良さです。ただ少人数ゆえにリーダーシップを養える一方、一人の負担が大きくなり行事前は勉強との両立で大変な面もあります。また課題として、大人数によるイベントやチームスポーツの部活動が難しく、一人ひとりが力を伸ばすためのダイナミックな挑戦の場が限られてしまう面は否めません。
しかし、2020年の中学1年生から徐々に男子生徒が入ることで新たに挑戦できる場も広がるでしょうし、女子生徒の苦手な部分を補ってくれることもあるでしょう。より刺激と活気に満ちた学園にしていくことが、今後の大きな目標になります。
私たち教員も思春期世代の男子への対応力を磨き、工学系への進路にも対応するなど幅を広げていきたいと思います。既に男子生徒の制服も決まって校内に飾っており、不安より期待と楽しみの方が大きいです。
今後も少人数制教育やアットホームな校風の良さは残しつつ、これまで以上に地域や近隣他校とのネットワークや結びつきを広く強くすることで、生徒が今以上に切磋琢磨し、外部への発信力を高めてくれたらと考えています。