高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第88回

第88回
高校教育最前線ルポ(大阪府大阪市)
常翔学園高等学校
「答えのない課題に取り組む課題解決型学習や
知的探究心を育む多彩なプログラムにチャレンジ」

インタビュー
常翔学園高等学校
教頭 
田代 浩和 先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:

大阪市旭区の淀川河川敷に近い閑静な地に位置する、常翔学園高等学校。現在の校名へと改称した2008年以降、地域有数の進学校を目指し学校改革を推し進めている。2011年度からは中学校を併設し中高一貫教育を実現、多くの生徒が現役で大学へ進学する。しかしながら大学進学はゴールではなく通過点と捉え、教育の理念は「『自主・自律』の精神と豊かな『職業観』を養い、実社会で活躍できる人材を育成する」。その特徴的な取り組みであるキャリア教育プログラム「常翔キャリアアップチャレンジ」やICTの積極的活用などについて、田代教頭に伺った。

実社会で活躍できる人材の育成を目指し
充実のキャリア教育で自主性を導く

▲田代 浩和 先生

本校は1922年開設の伝統ある学校です。関西工業専修学校を前身とし、2008年に現校名へと改称して、新たなスタートを切りました。

ラグビー部が全国屈指の強豪で、その活躍で広く名を知られるようになり、ラグビーの精神にも通じるところがあるのですが、学園は「世のため、人のため、地域のため、理論に裏付けられた実践的技術をもち、現場で活躍できる専門職業人を育成する」を建学の精神と掲げています。

現代社会はめまぐるしい速さで変化・発展を遂げ、多くの情報が溢れ、グローバル化も進んでいます。このような社会においての未来を担う者の育成には、基本的な知識や教養を身につけることはもちろんのこと、豊かな発想力、自らの意思で行動していく力を養うことが大切です。変化を繰り返し、複雑化・多様化するこれからの社会をたくましく生き抜くことのできる人間力を培うため、本校の教育は常に一歩先、未来を目指します。

課題解決能力、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力などの「21世紀型スキル」を磨く独自のキャリア教育プログラム「常翔キャリアアップチャレンジ」に力を入れているのも、その一環です。

全コースの生徒が1年次に学ぶ「企業探究学習」では1年間、実在する9つの企業へのインターンシップを実施します。インターン(=一社員)になると、企業から与えられるミッションにチームで挑み、問題点を検討し、最終的には、企業に向けて解決案を提案します。

このプログラムの重要なポイントは、正解のない答えを自分たちの手で主体的に導き出すこと、ミッションを通して世の中を知ることです。さらにチームで課題に取り組む中でコミュニケーション能力の向上が図られるのはもちろんのこと、自分がいったい何に向いているのか、役割や分担、周りへの配慮などについて考え学び、成長する好機に身を置くことができます。

また、自主性や責任感、リーダーシップ、自己肯定感なども芽生えるのです。実際にこのカリキュラムを通して、人前で発表をすることに対して自信が持てなかった生徒に顕著な成長の兆しが見られることも少なくありません。

企業探究学習の総括として各クラスの代表チームが出場し、学校関係者や参画企業の方々など1,000人近くが見守る前で発表する大会「JOSHO CUP」は、運営からリハーサル、ポスターなどの準備に至るまで、上級生が発表に挑む高校1年生を全力でサポートします。生徒たちの手で作り上げる発表の場には、得られる気づきや学び、発見が数多くあります。

テーマを決め研究・発表、論文作成を行い
専門分野への理解を深める科学探究授業

スーパーコース、薬学・医療系進学コース、一貫コースⅠ類のカリキュラムで、「物理ゼミ」「科学ゼミ」「生物ゼミ」「数理探究ゼミ」「情報科学ゼミ」「人文科学ゼミ」「社会科学ゼミ」「イノベーションゼミ」の8つのゼミに分かれて活動する科学探究授業「ガリレオプラン」も、生徒たちの知的好奇心を満たし、専門性を深く追い求める能動的な学びのスタイルが好評です。

科学的な分野に関しては学外のコンテストも数々ありますので、そういったコンテストや一般の学会などにも積極的に参加できる機会を設けています。

3年生は論文作成やサイエンスフェアでの発表などにも挑戦します。また、このコースを履修する生徒たちに関しては修学旅行も2019年からクラスの枠を超えた研修旅行というスタイルに変更。アイルランド、カナダ、シンガポール・マレーシアの3択から自分たちの行きたいところを選び、1週間ホームステイをしながら現地の高校に通い研究交流をし、最終的に英語で発表を行うという内容です。

グローバル化が進む社会で、専門分野に関して高度なコミュニケーション能力が問われる現場で必要とされる人材となるべく、科学の探究授業の中でグローバルを経験してもらいたいとの狙いがあります。

そして、大学を偏差値ではなく、何を学びたいのか、どんなことを突き詰めていきたいかによって選んでもらいたいと願っています。

行政の問題解決やディベートに挑戦し 
社会の諸問題を考察・解決する力を養う

企業探究学習で学んだ知識や手法を発展させる2年次の「ヤングリーダーズプラン」も、本校ならではの活気のある取り組みです。

その一例として、大阪市旭区役所の職員(インターン)となって、行政が抱える問題を解決する「Osaka City Project」にチャレンジしています。旭区長から出されるミッションに対し、各課に分かれて解決策を導き出すのですが、まずはゲストティーチャーの授業を受けたり、旭区や大阪市の現状について自分の足で出向き、目で見て体感し確認するフィールドワークを行います。

課題の一例を上げると、「千林商店街に活気を取り戻すには?」。日常の中で一度ならずとも接したことのある身近な場所、生活を取り巻く環境について目を向け、地域社会への貢献につながる重要課題にチャレンジできるのは、とても意義のある体験学習といえるでしょう。

2年生の後半ではディベートにも取り組み、実社会で必要とされる理解力や分析力、話をまとめる構成力、相手に物事をわかりやすく伝える表現力などのスキルアップを目指し、締めくくりとして選抜者によるクラス対抗ディベート大会を行います。

3年生には、自分の言葉で「自分史」をまとめることで、将来像や進路について考える機会を設けています。このような取り組みを通じて、生徒が自分の殻を破り、大きく変わる、一歩前へ進む好機と捉えてもらえれば幸いです。

生きた英語コミュニケーション能力を養う 
実践を重視したアクティブなグローバル教育

文理進学コースの生徒たちが対象のカリキュラムの中で、注目を集めているのが「ヤングアメリカンズ」です。

世界をツアーで回り、パフォーマンスを通じて教育活動を行う団体と共に、3日間の準備期間を経て歌とダンスのショーを創り上げるというパワー溢れる体験を通し、コミュニケーション能力を高め、国際理解力を深めます。自分たちの手でひとつの物を創り上げていく経験によって生徒たちが自身の可能性を広げ、殻を破り、大きく成長をするきっかけとなります。

また、全生徒を対象にグローバル教育に力を入れ、英語4技能の強化を目指しています。タブレットを活用してフィリピンのネイティブの先生とマンツーマンのオンライン英会話授業を実施したり、普段の英語の授業においても、生徒たちはタブレットで資料を共有し、ディスカッションを行う、プレゼン資料を作成し、グループで発表の練習を行うといったことも当たり前に行なっています。

また、夏期休暇を利用し希望者で実施する外国人講師によるハイレベルなサマーセミナーや、シドニーの姉妹校訪問プログラム、セブ島の語学学校でのマンツーマンレッスンなど、多彩なカリキュラムを展開しています。

さらに、ニューヨークのマンハッタンでフィールドワークを行い、現地の企業や国連、大学などを実際に訪問し、世界を舞台に華々しく活躍する方々に取材を敢行。

海外の大学で学ぶ、海外の企業で働く、といった人生の選択への理解や関心を高め、グローバルな観点での考察力を養うプログラムも実施しています。さらに来年度は、韓国や中国の姉妹校を訪問する交流プログラムも計画しています。

2年生のカリキュラム「英語エンパワーメントプログラム」は、海外の難関大で学ぶ学生を本校に招いて、日本にいながら留学体験ができる画期的なプログラム。

夏期休暇を利用した5日間、英語で考え議論し、最終的には発表を行います。超優秀な海外の学生に刺激を受け、英語学習やひいては自分の将来像について真剣に考え、成長する有意義な夏休みとなります。

ICTというツールを積極的に活用しながら
教える側の意識改革にも真摯に取り組む

ICTという新たなツールを得て、教育の場も大きく変わりました。

本校も、アクティブ・ラーニング=生徒が中心の授業スタイルが重要な役割を担うようになり、ICT活用は、その新しく画期的な授業スタイルを支える手段となっています。我々教導する側も常に時代の変化や生徒たちの成長とともに、積極的に前進し続ける必要があります。

今年度「教育イノベーションセンター」を新設し、授業改善に努めるべく、公開授業や校内研修会、ICTワークショップ、授業デザインワークショップなどを実施。今後も時代の流れにアンテナを張りめぐらせながら、「子どもたちの未来のために学校はどうあるべきか」を追求し続けます。

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