高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第82回

第82回
高校教育最前線ルポ(神奈川県鎌倉市)
北鎌倉女子学園中学校・高等学校
「キタカマは“しとやか”から“のびやか”へ
自立した女性の育成のため4つの改革が進む」

インタビュー
北鎌倉女子学園中学校・高等学校
進路指導部長 
福田 孝 先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:

神奈川県は鎌倉市の北鎌倉駅から徒歩数分、小高い丘にある北鎌倉女子学園。歴史と文化の香り漂う地で、普通科と音楽科を擁し80年近く女子教育に取り組んできた。同校は新理事長の就任と同時に、グローバル化や女性の社会進出が進む時代に対応。「のびやかな自立した女性の育成」を新たな教育目標に掲げ「ジエシカ」と呼ばれる4つのキーワードからなる改革を推進中。自主性・受験(ジ)や英語力(エ)、施設・設備(シ)、鎌倉との地域連携(カ)を柱に、教職員が一体となって新しい学園づくりを進めている。進路指導部長として指導実績をもつ福田先生に、具体的に学園がどのような改革を推進しているのか、どう変わりつつあるのかを伺った。

教育目標を刷新し、「のびやかな自立した女性の育成」へ 
グローバル化に対応し、自主性を育てる

▲福田 孝 先生

北鎌倉女子学園は1940年(昭和15年)に創立。2020年に80周年を迎える歴史と伝統があり、面倒見の良い女子校です。高校は普通科と音楽科を擁し、中高一貫の生徒と高校からの生徒が鎌倉の緑豊かな丘に建つ校舎で学んでいます。

これまでは“しつけが厳しく家庭的”“おとなしく、しとやかな生徒が多い”という校風でした。しかし、元駐米特命全権大使で、現在も日米協会会長を務める藤崎一郎氏が2017年4月に本学園の理事長に就任。藤崎理事長は外交官として経験が豊かで複数の大学で教授、中高で講演してきた経験も生かし、新たな改革を本校で行う決意をされました。

女性の社会進出が当たり前の時代に、自立して国際社会に羽ばたける女性を育成しようと、新たな教育目標を『のびやかな自立した女性の育成』としました。これは健康で科学的な思考力を身につけた女性を育成する、という本校の創立者・額田豊博士の考えを受け継いだものでもあります。

さらにグローバルな時代の要請に応えて、生徒の自主性を生かし、多様な価値観に心を開く国際性豊かな女性を育成します。そのため、全校一体となって新しい学園に生まれ変わろうと、今「ジエシカ」というキーワードを掲げ、4つの改革を推進しています。

4人のネイティブ教員を採用し、
イングリッシュルームを設置 
英語を抜本的に強化するとともに、ICT化や地域密着も推進

ジエシカの「ジ」は自主性と受験の「ジ」をさします。生徒自らが考え、行動し、自ら成長していく生徒を育成。生徒の自主性を尊重すべく、校則も見直し、行事・委員会・部活動なども生徒主体の活動を増やしています。

また受験に強い授業の推進として、有名大学の過去問を分析し、大学入試改革に対応できる内容も充実。生徒自らが課題を設定し、解決していく、いわゆるアクティブ・ラーニングも増やしています。大学入試改革に向けた取り組みも記述力の強化や課外活動を中心に行われています。自主性や国際性を磨いていく、その意思表示の象徴として、制服も2019年4月から世界的デザイナー・コシノジュンコさんデザインのものへ変わります。

次の「エ」は英語教育の抜本的強化です。2018年4月からネイティブの英語専任教員4人を採用しました。2020年の大学入試改革や共通テストで重視される英語4技能強化に取り組んでいます。文法などは日本人教員がしっかり教えて、大学入試に備えます。

新設のイングリッシュルームはさながら外国の教室のようで、放課後は常駐するネイティブの教員と触れ合うことができる環境です。また外部試験の積極的な活用や、海外提携校(姉妹校)を増やし、交換留学にも力を入れていく方向で検討しています。

次の「シ」は施設・設備の「シ」です。内装や教室の設備を一新、食堂のリニューアルや全館Wi-Fi化を行っています。ちなみにICT化は既に改革が進んでおり、現在の中一生と高一生全員へのiPad配布は完了。しかも家に持ち帰れるので、宿題の配布も回収もWeb上で行えます。

教員はさらに「chromebook」と呼ばれるノートPCや「ロイロノートスクール」というアプリ活用で、生徒の宿題チェックから生徒の解答をすべて一覧で見られる機能などを活用。演習が多い教員にとっては効率化が進められ、授業や採点作業がやりやすいものに。教員にとっては家庭とのコミュニケーション、教員同士の連絡や情報共有ツールとしても使用しています。

生徒は自分の活動記録をまとめポートフォリオを作成したり、適切なスケジュール管理もできます。他にも「スタディサプリ」の活用により、小学校や中学校の学び直しなどもしやすくなっています。

最後の「カ」は「鎌倉」と密着した体験学習やキャリア教育の実施を表しています。鎌倉は歴史の街として知られるように、外国人訪問客・観光客が多い国際的文化都市です。その地の利を生かして、円覚寺や鶴岡八幡宮などに訪問し、放課後などに外国人観光客への無料英語ガイドを始めました。さらに商店街と交流したり、お祭りにも積極的に参加。日本文化部が生け花を飾り、コーラス部が老人ホームで歌うなど、地域貢献活動も積極的に行っています。

従来、本校は放課後に特別講座などを設ける形が多かったのですが、模擬試験のチェックや弱点補強などをICT化で進めていける分、補習的なものを減らし、希望者を募る形でこうした課外活動に積極的に取り組み始めました。

女子校だからこそ個性を発揮でき、外部との接触や他校との交流も今後増やす方向で、まさに “のびやかな”女性が育っていくと感じます。実際、円覚寺の英語ボランティアガイドに参加した生徒は「案内してお礼の言葉を頂くととても嬉しい気持ちになり、次回はより多くの外国人を案内したい」といった感想が聞けています。もちろん、こうした機会は多くの人との対話力や実践的な英会話力にもつながるでしょう。

大学入試改革の記述式や推薦・AO入試拡大にも対応 
発信力や表現力、共創力も国際社会に飛び出す原動力に

本校は伝統的に音楽科があり、声楽・ピアノ・弦/管/打楽器、作曲、音楽総合の各専攻のもと、1年次より専門実技と副科実技のレッスンを設定し、専門的かつ集中的に技術を磨いています。ただ学科や礼儀作法は普通科と同じように習得。吹奏楽部などの部活動や校内行事、ボランティア活動は普通科と共にします。

また3年間、音楽の実力を高め、ほぼすべての生徒が音楽大学をめざし、東京藝術大学を筆頭に、東邦学園大学や国立音楽大学など各音楽大学を目指し、実際に多くが現役で合格し進学しています。

一方、普通科は早い段階から将来を見つめ的確なコース選択をしようと、1年次に普通コースと特進コース、さらに2年次には文理進学コース、特進文系コース、特進理系コースに分かれ、それぞれ特色ある授業を行っています。国公立大学から早慶上理GMARCHクラスの私立大学、医療・看護系や保健福祉系など多方面に進出しています。

普通コースで入学しても頑張れば、2年生から特進コースに進むことができ、中学までは自分を出し切れなかったとか、消極的だった生徒が本校で急に活発さを見せるなど、大きく伸びていく生徒もいます。例えば音楽科の生徒はコンクールの挑戦などでステージ慣れしていて、普段から自分を表現する術にたけています。そこに感化され、プレゼンテーション力や表現力を増す生徒もいます。

大学入試改革により、2020年度から大学入学共通テストが実施されます。今の高一生から入試が変わりますが、本学園では早い段階からその情報を入手し、対策に取り組んできました。

また、伝統的に国語の授業だけでなく日直の日誌や行事の感想などを含めて、常に「書くこと」の指導を重視してきており、記述式が増えることにも対応できると考えています。英語4技能重視に関しては、先に述べたネイティブ教員や施設の増強、国際教育で十分に英語力を強みにしていけるでしょう。

一般入試もAO入試や推薦入試ともに、多面的総合的評価に移り変わろうとしていますが、本校は従来から推薦入試に強い伝統があり、生徒一人ひとりの多様な学力を丁寧に見てもらえる機会が増えることで、今回の入試改革の動きも強みにしていけると感じています。

また推薦入試やAO入試では面接や小論文対策などに取り組むため、早く志望動機が明確になるのもメリットです。たとえ万が一推薦入試が上手くいかなかったとしても一般入試の記述式問題にも書く力は生かせますし、AOに始まり、公募制推薦、指定校推薦、共通テスト、一般入試と段階的にアドバイスも行うため、二重三重で対策が取れていくわけで、本校の生徒に入試改革は有利になると感じています。

本校では「勉強合宿」も大切にしてきました。朝早くから夜遅くまで先生や友人の力を借りて一人では成しえない勉強を達成。その有用性は残しつつ、新しい目標としてはこの時、この場、このメンバーでしかなしえない勉強を共に創り上げる“協働”や“共創”が大切だと投げかけています。特に女子はみんなで助け合って壁を乗り越えていく、その力は強いと感じます。また女子校では性差による役割分担をしないため、文化祭等の行事や部活動を通じて主体性やリーダーシップも養えます。

他にSDGs(持続可能な開発)サークルの活動をはじめ、JICAを見学したり、ユネスコの世界寺子屋運動に参加したり、広く社会と接点を持ちつつあり、今後も課外活動を増やすことで「のびやかで自立した女性」の育成に邁進していきます。

本校には多様な生徒がいますが、教員は担任に限らず一人ひとりに寄り添い丁寧に指導を行うため、成長の過程を知っています。職員室で「あの生徒がこんな進路を考えている。それなら、こうしたら?」と、多くの教員からいろいろなアドバイスが飛び交います。その良き校風を未来に伸ばしながら、さらに培った自主性・自立心を国際社会で生かしてくれたらと願っています。

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