高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第90回

第90回
高校教育最前線ルポ(本校:茨城県高萩市、兵庫県養父市)
第一学院高等学校
全国主要都市に52キャンパスを設置する通信制高校
千葉キャンパス「成長実感発表会」レポート

インタビュー
第一学院高等学校 千葉キャンパス
山本 真規子 キャンパス長
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:

第89回で、四ツ谷キャンパスの成長実感発表会の様子 を紹介した。第一学院高等学校は、プラスサイクル指導法で、着実に生徒の成長を促すサイクルをまわしている。続いて行われた千葉キャンパスでの「成長実感発表会」に参加し、山本キャンパス長に取組について話を聞いた。

一人ひとりの生徒と向き合う先生たち
1/1(いちぶんのいち)の教育

▲山本 真規子 キャンパス長

千葉キャンパスは、アクセスのよい千葉駅近くに立地し、近くには海と大きな公園がある。お互いを思いやる生徒が多く、はじめて来校した人に、やさしく声を掛けるアットホームな雰囲気だ。春に入学した1年生の生徒は、「やさしい人たちで、無理に距離感を詰めたりせず、自分の気持ちを尊重できる場所だと感じた」と、オープンスクールで迎えてくれた先生、生徒たちの印象を教えてくれた。

「第一学院の『一』は、一人ひとりに向きあう『一』です。一人ひとりの個性を尊重した教育を行っています。学校が苦手になり不登校になった子や、自分が目指したい道に専念したい方、時間をそこに傾けたい方に、さまざまなシチュエーションに通信制というスタイルの中で学びを提供しています」と四ツ谷、埼玉など複数のキャンパスを経験した山本先生は話す。

第一学院は、近くのキャンパスに通う標準コースをはじめ、大学進学を目指す特別進学コースや大学・専門学校と連携した専門講座が受講できる総合コースがあり、目指す進路・目標にあわせて選択がすることができる。「中学ではあまり学校に通えなかったが、しっかり学べて大学への進学を目指せる環境だったので入学を決めた」と、2年生の生徒は入学を決めた理由を教えてくれた。

「私たちが掲げる1/1の教育は、一人ひとりの生徒と向き合い、他の誰かと比べるのではなく、自分のペースでちょっとずつできることを増やしていく。それが私たちの教育の一番の目標です」と山本先生は話す。

「千葉キャンパスは、ベテラン教員と若手教員のバランス良く、懐の大きい教員が多く生徒にやらせてみようという雰囲気が強い。〈自立・自律〉の促しが、第一学院のなかでもよくできている」と、成長実感発表会を見に来ていた秋葉原のキャンパス長の岡本さんは話し、千葉キャンパスの成長実感発表会への期待をのぞかせる。

「成長実感発表会」を通して
自己表現、聞く姿勢を磨く

「教育の場で、他者へ意見を上手に伝えることは、重要な能力と位置づけられる。大学入試の総合型選抜等では、さまざまな入試スタイルがあり、面接だけでなく、課題提出と併せ、内容をプレゼンしたり、口頭試問が行われるものも増えている。人の前に出てなにかをうまく伝える能力は、どんな進路を目指す生徒も社会にでて必要となるので、成長実感発表会を通して自己表現を磨いてほしい」と山本先生は話す。

一方で、聞く姿勢の大切さも強調する。「発表している人がいるからこそ、しっかり聞く姿勢をとることで、話す方も聞く方も双方で受けとめ発信しあい、異なる意見でも理解し合えるようになる」と聞く姿勢も磨いてほしいと話す。

成長実感発表会は、年2回予定される。前回千葉キャンパスではCOVID-19の感染防止のため中止され、期間をおいての開催となった。生徒は対面形式と別教室でのオンライン視聴となる。保護者は来校または、オンラインで発表会に参加した。

今回はフリーテーマ。生徒は、好きなテーマについて5分間で発表を行う。32組の生徒が発表を行った。発表テーマは、人気アニメや手芸、ミニチュア飾り、新聞コラム、ゲーム会社の歴史、VTuber、ルービックキューブに、ナマコの生態などなど、実に幅広い。生徒がハマっていることや得意なことの他にも、多重人格障害やトランスジェンダー、少年法、差別など深いテーマを、聞き手の生徒は発表者と一緒に考えていく場面もあった。

テーマにはイラストや文芸などで似通ったものもあり、発表者の視点やアプローチの違いでまったくちがう結論が導かれることに、物事の多面性や異なる見方、考えがあって良いのだと、先生からフィードバックがあり、自分の意見を大切にすることを分かち合っていた。詐欺サプリ広告の発表では、年齢別アンケートを行い、頻繁に視聴する動画と掲出される広告の傾向を分析し、注意喚起を訴えていた。

発表中盤では、去年プレゼンをAO入試で行い見事志望校に合格した卒業生が、大学入試プレゼンについて後輩のために発表を行った。使うツール、服装、話し方、ジェスチャー、目線や細かいテクニックなど、実際の経験にもとづくアドバイスはわかりやすい。

「資料は『読み放題サービス』を使うと便利だよ」「何度も聞かれる質問『他にはどんなものがありますか?』に備えて全部は資料に書き込まず予備で持っておこう」など、先輩からの嬉しいプレゼントに、生徒たちは真剣に発表を聞いていた。

成長を実感し、次へのステップを踏み出す生徒たち
生徒から「楽しかった!」と声があがった

発表が終わり生徒は先生の講評に耳を傾ける。今回の取り組みが始まった9月に、「成長実感発表会は、人前で考えを表現することを学ぶトレーニングの場」と先生が掲げた目的を振り返る。

「今回うまくいったことは次に残し、うまくいかなかったことは改善して次のチャレンジに向けてほしい。次は、2月から3月の予定です。これは、トレーニングですから、場数を踏みましょう!!」と先生が生徒たちに声を掛ける。会場から「楽しかった」と生徒の感想の声が聞こえた。そして、生徒たちはタブレットなどでしっかり今日の振り返りを行い、ICTを活用していた。

初めて発表会に望んだ1年生は「資料作成ソフトをはじめて使ったが、意外と簡単に資料が作れて、思ったより難しくはなかった」と資料づくりの感想を教えてくれた。「発表は家で練習したけど最初は自信が持てなくて、こんな内容でいいのか心配だった。けれど、やって本当によかったと思いました」と自身の成長実感を教えてくれた。いろいろな内容や上手な発表があり刺激を受け、次の機会に活かしたいと話す。

3人で発表した2年生は「なにを発表するか、案を出し合ってテーマを決め、原案・プレゼンターと、シナリオ作成、資料作成と担当を決めた」と話す。「前回と今回はグループでの発表だったが、次は自分ひとりで発表したい」と3人は話す。「原稿を読み上げるのではなく、流れる映像にあわせて話してみたい」「聴衆への呼びかけを入れてみたい」「自分が活動しているピアサポーターをテーマに発表したい」とそれぞれが次の発表への想いを教えてくれた。

プラス思考が学びのサイクルを生み、
成長実感がまた新たな学びを生みだす

ピアサポーターとは、オープンスクールのスタッフとしてイベントを企画したり、入学希望者と交流したり、新入生がスムーズに学生生活をスタートできるように手伝う生徒のことだ。「千葉キャンパスは、ピアサポート活動が盛んなキャンパスの一つ。ピアサポーターを中心に、生徒同士の意欲喚起・交流があり、積極的に動ける生徒が多い」と秋葉原キャンパス長の岡本先生は、千葉キャンパスの特長を教えてくれた。

“ピア”とは、仲間や友達という意味だ。ちなみに、第一学院では教職員を「先生」ではなく「仲間」「同志」という意味の「フェロー」と呼ぶ。生徒の様子を見ていると、学年間や生徒と先生のとても距離が近い。

「イベントで出ていくピアサポーターだけでなく、Web上で積極的に活動する生徒がいる。今回の成長実感発表会でも前日の緊張やリハーサルの不安の書き込みに、アドバイスや励ましなど、それぞれが声を掛けあっていた」と山本先生は話す。ICTを活用した成長を可視化するためのeポートフォリオや学校ブログの中で、積極的にメッセージやアドバイスを発信する生徒たちのやり取りを優しい眼差しで見守る。 そのような他者への貢献こそが、プラスサイクル指導によるものだと山本先生は話す。

「マイナス思考になると、その人の力が思うように発揮できず萎縮してしまう。まずは、そこをリセットしプラスにかえていくところからスタートする。プラスの言葉。プラスに受け止めること。一人ひとりがマイナスな言い方をした時のプラスへの言い換え。受け手の気持ちを考え、周りに対してマイナスな言葉を話さないようにと指導する。感謝の気持ちを伝えること。高校は義務教育とは違い、両親など様々な人の支えで通うことができている。恥ずかしくても両親への感謝を伝えること。そして、自分に余裕ができたら、周りのひとも助けてあげる。他者への貢献をやってみて、良くできたことやうまくできなかったことなどを、一つひとつ振り返ることで、さらに良くなっていく」とプラス思考のサイクルをまわして生徒を育てていると話す。

千葉キャンパスでピアサポート活動が活発に行われ、相互理解・助け合う意識が強いのは、先生たちが行っているプラスサイクル指導が生徒にしっかり浸透している証拠なのだと言えるだろう。

今回の成長実感発表会では、生徒自身の成長実感だけでなく、来校した保護者やオンラインで参加した方が、我が子の発表に驚き・喜んでいた。生徒の成長を共有し、多くのフィードバックを生徒に戻せたことを、山本先生はとても喜んでいた。教育には「プラスのサイクル」が大切であることを、今回の取材で学ばせてもらった。

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