高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第83回

第83回
高校教育最前線ルポ(埼玉県北足立郡)
栄北高等学校
「切磋琢磨を促す4類型のもと、
大学入試改革に対応した教育を果敢に進める」

インタビュー
学校法人佐藤栄学園 栄北(さかえきた)高等学校
進路指導部主任 
尾畑 明 先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
公開:

埼玉県大宮駅からニューシャトルで15分の「丸山」駅近くに立地するのが学校法人佐藤栄学園が運営する栄北(さかえきた)高等学校だ。広い学習環境に加え、体育館やグラウンド、エア・ライフル場までのスポーツ施設が充実。生徒の実力に応じた4類型のもと、2020年度大学入試改革への対応をはじめ、アクティブラーニング型授業やキャリア教育にも力を注いでいる。英語では英検やGTECの推奨、語学研修やエンパワーメントプログラムも採り入れ4技能の習得や国際化への対応に余念がない。他にも放課後授業や部活動も活発で、充実した施設・設備と合わせ文武両道を後押し。生徒の集中力を高めている。近年は進学校として軌道に乗りはじめ、国公立大学や私立大学への合格者も増加。進路指導を担う尾畑先生に、どんな特色ある教育や進路指導を行っているかを伺った。

「人間是宝」を建学の精神、「今日学べ」を校訓として
全員が大学現役合格を目指す進学校の道を歩む

▲尾畑 明 先生

栄北高等学校は、埼玉県に大学や専門学校、複数の中学・高校を運営する学校法人佐藤栄学園が2000年(平成12年)に設立した私立高校です。系列の高校には埼玉栄高、栄東高、花咲徳栄高校があります。設立当初は、自動車科と国際情報技術科がありましたが、時代の流れや地域のニーズを受けて、今は普通科のみの募集で、約1,000名の生徒すべてが4年制大学を目指す進学校の道を歩んでいます。

学園の創設者・佐藤栄太郎の「人は生きた資本であり、資産なり」の理想に基づき、建学の精神は「人間是宝(にんげんこれたから)」、校訓は「今日学べ(こんにちななべ)」を掲げています。人は誰でも努力と勉強次第でその道の第一人者になれるもの。このことを日々の教育で実践、今日できることは今日学ぼうという姿勢を大切にしています。

進学志向の高まりを受けて、個性や能力・希望に合わせた4類型を用意。1年次から類型別にクラスを編成。進級する際には成績と希望に応じて類型を変更することが可能です。

「特類選抜」は、難関国立大学や早慶上智クラスの大学を、「特類」は国公立大学やGMARCHクラスの私立大学を、さらに「Ⅱ類」は有名私立・中堅私立大学を、「Ⅰ類」は中堅私立大学をそれぞれ目標としています。「特類選抜」と「特類」は一般入試が中心ですが、「Ⅱ類」と「Ⅰ類」は一般だけでなく、AO入試や推薦入試も視野に、全員が志望大学に現役で合格することに照準を置いています。4類型に分かれても生徒間で「ぎすぎす」した関係になることはなく、良き仲間意識をもって切磋琢磨してくれていると感じます。

確かな基礎学力と学習習慣を確立した上で応用力を養成 
英語4技能を高める検定試験、国際体験の場も用意

教育の特徴として、1年次は類型を問わず基礎学力・学習習慣の確立に力を注いでいます。

早朝学習では小テストや授業、読書などを行っています。またリメディアル教育として、大学入試での基礎力となる中学の復習に力を入れています。さらに学習手帳(フォーサイト)を活用。日々の授業から家庭学習まで、自主的に学習の計画(Plan)を立て実行(Do)、振り返る(See)のPDSサイクルを習慣化しています。フォーサイトは担任がこまめにチェックし、二者面談の際にも目標を立てて努力しているかをチェックできるので大いに役立っています。

応用力の育成としては、特選演習(特類選抜・特類の1・2年生向け)で予備校講師の授業を放課後と夏季休業中に年間27回行っています。どの類型も2年次以降は文系・理系に分かれます。また全学年全類型を対象に放課後演習として大学受験用の演習を90分間実施しています。

その他、教室を自習室として開放すると同時に、82席収容の自習室も利用でき、自ら学ぶ姿勢を育んでいます。他にもICT活用の発展的学習としてプロ講師の授業が映像で見られるスタディサプリの活用、夏期講習や冬期講習など各種講習会でも実力を養成しています。

2020年度には大学入試改革により新テスト(共通テスト)が実施されますが、同時に私立大でも能力を多角的に評価する入試が導入されています。いわば学力と人間力の両方を兼ね備えた生徒が合格を勝ち取る時代と捉え、本校ではこうした新大学入試に向けた対策も強化中です。

例えば英語4技能の強化としては従来から行っている英検受験の奨励の他、オンラインでコミュニケーション力をはかるGTECを活用した英語力の育成、ネイティブ教員であるAETの常駐化を推進。さらに2年次のニュージーランド修学旅行やセブ島(フィリピン)への短期語学研修で、生きた英語を学ぶ機会を設けています。

語学研修は佐藤栄学園全体で希望者を募っていますが、本校からも10数名の生徒が参加し、異文化理解を深めながら学んでいます。

さらに2018年からは夏休みを利用して、アメリカの大学に在学している学生を日本に招き、交流する「エンパワーメントプログラム」を開始しています。これは優秀な海外の現役大学生7名が本校生徒5人に1人つく形で5日間の交流を行います。ディスカッションやプレゼンテーションを通じてグローバルな視点やリーダーシップを養っています。

また大学生は希望生徒宅にホームステイします。これをきっかけに海外に視野を広め、英会話力を高めようという生徒が増えることが期待されます。

伊奈町と連携したキャリア教育、ユニークな部活動も展開 
思考力や表現力を育成し、多面的評価にも対応

このほか思考力・判断力・表現力の育成の一環として、キャリア教育も重視。2017年までは「実社会との接点を重視した課題解決型学習プログラムに係る実践研究」に関して文部科学省の研究指定校となり、3年間の体系的な学習プログラムを展開。伊奈町の役場や観光協会、商工会、企業と連携した取り組みを実施。例えば、伊奈町議会訪問や町政の改善を目指す「政策提言書」の作成、「伊奈町振興ビジネスプラン」の作成などを行いました。

具体的には「沿線のニューシャトルを利用するとカードにポイントが貯まり、それを地元の商店街で利用できるようにしてはどうか」といった街の活性化につながる提案も見られました。以後も地域の企業などとの「協働」の中で主体的に社会問題に関わる姿勢や、思考力・発想力・表現力を養っています。

他にも多面的・総合的評価への対応としてはe-ポートフォリオの活用も始めています。自ら高校での活動記録を蓄積し、自分自身を高めるとともに、AO入試や推薦入試をはじめ一般入試でも重視される新しい調査書への対応にもなるでしょう。

本校は部活動も活発で、1年生の9割以上は参加。どの類型でも勉強と部活動の両立を図っています。

本校ならではの部活動にはエア・ライフル部があります。校内に安全性を確保した練習場があり、全国大会の常連となっています。卒業生の中にはオリンピック代表候補になる選手もいます。生徒は専用のコートを付けた上で重いライフルを抱えて小さな的を狙うので基礎体力の上に集中力が必要ですが、勉強や重要な場面で力を発揮できるメンタル強化にもつながると感じます。

他にも本校ならではの部活動として、自転車競技部があります。もちろん野球やサッカー、卓球、空手、ダンスや吹奏楽なども活発です。ボランティアなども推奨しており、これら課外活動は人間力を高め、多面的・総合的評価にも結びつくでしょう。

首都圏中心に、95%以上の大学現役合格率を達成 
教員自身が挑戦を恐れず試行錯誤しながら生徒を後押し

設立当初は目的意識が希薄な生徒もいたのですが、19年目を迎えた今は大学進学を目指して学力向上を狙う生徒がほとんどです。地域的には伊奈や上尾、蓮田、大宮からの生徒が多く、自転車で通学する生徒も多く見受けられます。

近年は進学実績も向上しており、大学現役合格率は95.4%。2018年春の入試では東北大学をはじめ、国公立大学に20名が合格を果たしました。私立も早稲田大学や上智大学、東京理科大学へ11名、そのほかGMARCHにも合格者47名を出しています。今後は最難関国公立大学により多くの生徒を送り出すこと、私立は早慶上理30名、GMARCH100名の合格を目指します。

ただ埼玉県中部に位置する土地柄か、比較的のんびり、おっとりした生徒が多く見受けられます。

自宅から通える都内の大学を志向する生徒がほとんどで、地方の有力国公立大学や海外に飛び出す生徒は少ない傾向があります。保護者もまた生徒をずっと自宅に置いておきたい意向が強いです。今後は、そのような生徒にも火をつけて、いかにモチベーションを高めるかが課題です。

キャリア教育で地域の企業人による講演なども行っていますが、今以上に大学卒業後の目標や職業を意識させる試みも大切でしょう。また海外留学あるいは国際体験の場をもっと増やしていくなど、本校ならではの人間教育と進学指導で、チャレンジ精神と総合力を培っていけたらと考えています。

私たち教員もアクティブラーニングなど生徒参加型の授業を行ったり、放課後も応用力養成に力を入れたり、飽くなき試行錯誤を続けています。生徒は大学合格がゴールと考えがちですが、その先につながる課題発見・解決力やリーダーシップを養い、高い志を貫き、夢をあきらめない生徒を送り出していきたいと思います。

それには、教員も決められたメニューや新しい入試制度に対応した取り組みだけでなく、失敗を恐れず挑戦する姿勢を持ち、失敗から学んで改善していくような試みが大切だと感じます。まさに本校の建学の精神「人間是宝」と校訓「今日学べ」に則り、共に人間力を磨くといった姿勢で日々の授業や生徒との触れ合いを大切に、社会の多方面で輝く人間を育てていきたいと思います。

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