高等学校とキャリア教育

全国の高校で実施されているキャリア教育の取り組みを紹介

第81回

第81回
高校教育最前線ルポ(神奈川県鎌倉市)
鎌倉女子大学 中等部・高等部
「国際教育とキャリアデザインに注力し、
生徒の進路目標と自己実現を支援し続ける」

インタビュー
鎌倉女子大学 中等部・高等部
進路指導部特進統括 
工藤 𠮷猛 先生
※組織名称、施策、役職名などは取材当時のものです
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緑に包まれた伝統ある鎌倉の地に幼稚部から大学院までを擁し、園児・児童・生徒・学生それぞれの学齢期に応じた教育を展開する学校法人・鎌倉女子大学。高等部は大船駅からバスで10分の岩瀬キャンパスにあり、中高一貫生と高入生が共に学ぶ。生徒主体型学習を採り入れ、実践力・思考力・共生力を持つ女性の育成に力を注いでいる。特に多様化する時代や国際社会に対応し、「語学力」「表現力」の養成に努めるとともに、キャリアデザイン支援として自分の強みの発見やモチベーションアップに余念がない。昨年まで進路指導主任としてキャリア教育をリード。キャリア・カウンセラーやピア・サポート・トレーナーなどの資格も有する特進統括の工藤先生に、どんな特色ある教育や進路指導を行っているのかをお伺いした。

エンカウンター講義やコミュニケーション講座、
精神修養会・立居振舞講座等で土台となる人間性を育む

▲工藤 𠮷猛 先生

本校は1943(昭和18)年に学祖・松本生太先生によって京浜女子家政理学専門学校(後の京浜女子大学)として創設されました。1989(平成元)年に鎌倉女子大学、同短期大学部・同高等部・同中等部・同初等部・同幼稚部と変更し、2006(平成18)年には大学院児童研究科も設置されました。

建学の精神は「感謝と奉仕に生きる人づくり」「ぞうきんと辞書をもって学ぶ」「人・物・時を大切に」の3つを掲げています。「ぞうきん」とは自分から進んで仕事に取り組む態度をさし、「辞書」とは積極的に知識を探し求める姿勢をさします。

目指す学校像は、①建学の精神にもとづき「豊かな人間性」を育む、②自立して活躍できる「確かな学力」を育む、③国際社会で活躍できる「語学力・表現力」を育む、です。

①に関してはコミュニケーション、伝統、本物に触れる、をキーワードに、良好な人間関係を築き、自立心と他者を思いやる心を育てています。高等部1年次では「エンカウンター講座」や「コミュニケーション講座」を実施。前者では外部から大学教授を招いて、同じ体験でも自己と他者で感じ方の違いを認識するなど、気づきを得ることを目標にしています。また後者では気持ちの良い挨拶や質問の力、伝える力を身につける実践講座を行っています。これらは、3年間の学びの土台となるものです。

他にも毎日欠かさず書き続ける心と行動の記録「修養日誌」、歴史ある神社・仏閣・教会で、心の糧となるお話をうかがう「精神修養会」、日本の伝統に根ざした日常の礼儀作法を56畳の本格的な和室で学ぶ「立居振舞講座」、「校門での一礼」など、伝統あるプログラムで道徳観と女性らしい美しい所作を身につけています。また年に1回、本格的な劇場で歌舞伎、オペラ、ミュージカルの鑑賞を行っています。

自立して活躍できる確かな学力と共に
国際社会で活躍できる「語学力」「表現力」を養成

②の「確かな学力」に関しては、「学校は進路目標を実現する場だ」という考えに基づき、生徒一人ひとりが夢の実現に必要な学習支援体制を整えています。高等部は普通科を擁し、中高一貫生主体の特進コースと進学コースが1クラスずつと、高校からの入学者(高入生)主体の進学コース3クラスに分けています。

特進コースは高い学力と知識を身につけ、一般試験でGMARCH以上の難関大学(国公立を含む)合格を目指すコースです。一方、進学コースは幅広い教養を身につけ、自分に合った受験方法で進路実現を目指すコースです。学習内容や進度を揃えるため、1年間は中高一貫生とは別のクラスになりますが、一般入試の成績上位者は特進コースへの道が開かれ、2年次以降は合流し、さらに文系・理系に分かれていきます。

放課後に予備校講師と大学生・大学院生のチューターが常駐し、基礎学力の定着を実現するほか、個人カルテによって定期試験や模擬試験の結果をもとに学習到達度を測り、定期的な面談によって生徒の学力向上をサポートしています。

「基礎学力」のほか、効果的な家庭学習を促すための「週プラン」を立てて「主体的な学習習慣」をつけること、「学習へのモチベーションづくり」には徹底的にこだわっています。

③の「語学力・表現力」を育むでは、2020年度から始まる新しい大学入試制度に対応し、国際社会で活躍できる生徒の育成を目指した新しい英語教育プログラムをスタートしました。特別集中講座で語彙力と基礎力の定着を図る「Form」、最新のオンライン会話システムを活用した「ICT」、国内外の語学研修プログラム「Training」、主体性をもって学習に参加する授業「Student Centered」の4つからなる「鎌倉FITS」を導入。高等部3年生までに全員英検2級取得を目指し、準1級に挑戦するなど教育内容の向上に努めています。

また平成29年度にオーストラリア語学研修の実施校であるブリジディンカレッジと姉妹校提携を結び、10日間の語学研修に参加できます。さらに平成30年度からは、オーストラリアとニュージーランドで2ヵ月ほどのターム留学をスタートさせ、より深く語学と国際社会を学ぶチャンスを拡大しました。

やりたいこと、強み、社会ニーズの接点を探る
起業活動プログラムでは異学年で社会貢献を意識

高等部はかつて鎌倉女子大学への進学が7割に上る時代もありましたが、今は女性の社会進出が多方面に及び、一般企業でも国際社会への対応が求められるため、本校も幅広い進路に対応しています。大学も内部進学による学生確保にはこだわらないため、鎌倉女子大学と短期大学部を合わせた進学割合は2割弱。6割強は他大学への進学、1割が他短期大学や専修学校進学という割合です。

鎌倉女子大学や短期大学部の児童教育や家政保健分野に興味をもつ生徒は、幼稚部や近隣の保育園に希望制でインターンシップ体験ができますし、他にも鎌倉女子大学の高大連携講義を受講できます。

文系志願者が多いですが、近年は外国語系や国際系も人気です。他にも医療系、獣医系、建築系など理系を志望する生徒も増えています。ただ中には安易に進路を考える生徒もいます。そこで、二者面談やキャリアカウンセリングでは、しっかりした動機があるかどうかを確認し、PDCAサイクルの作り方や時間管理方法などにつなぐことを心がけています。三者面談では、進学に対する考え方で対立する親子間の溝を埋めることも少なくありません。

このように本校の進路・キャリア教育は、偏差値による安易な大学選びではなく、「一人ひとりに合わせたキャリアデザイン」と位置づけ、1年次より丁寧にサポートします。

特に自分のやりたいこと(自己実現)とできること(自分の強み)、すべきこと(社会のニーズ)、その3要素が重なる部分(キャリア・アンカー=船の錨の意味:キャリア形成で最も大切な価値)を見つけていくのが特徴です。そして自分のキャリアデザインを常に改善していくことを大切にしています。

キャリア教育の一環であり生徒主体型学習の取り組みとして、学年を超えて行う起業活動プログラム(会社づくり)「Kamakura Beyond Project」(KBP)は本校の目玉の一つ。これは生徒が身近な社会から課題を見つけ、それを解決するために校内に「カンパニー」と呼ばれる組織を作り、高等部2年生をトップとして中等部の生徒も巻き込んで活動します。

地域の「神奈川県産業振興センター神奈川県よろず支援拠点」のサポートのもと、地域の会社やNPO法人に出かけ組織や運営など現状を調査。実際にどんな会社を作ったら社会に貢献できるかを考え、事業計画を立案して活動に結び付ける。それを文化祭で発表したりしています。

例えば生徒たちは各家庭で不要になったモノを集めてラッピングして販売するようなリユース業、教育と掃除を扱い、清掃グッズを作成したり、清掃活動を保育園などに指導に行く事業などを考えています。利潤追求だけではなく、どういう活動が地域や人に喜ばれるかを考え、自分の役割を担うわけで、高校生の段階から社会を意識できる有意義な試みだと感じています。

この活動は異学年混在型のチームで行うため、仲間や先輩・後輩との対話力、プレゼンテーション力も必要です。私自身ピア・サポート・トレーナー(日本ピアサポート学会)の資格も生かし、話し方や傾聴の仕方、他者と対立した時に相手を不快にさせずに納得や和解にこぎつけるためのアドバイスも生徒たちに与えています。

キャリアは生涯に関わる問題であり、自分の強みを伸ばし広げ続けていくことで、将来の社会の課題への対処法や自己実現につながります。卒業したからといってキャリア教育は終わりではありません。例えば卒業生が大学の授業に疑問を感じたり、会社の昇進試験に悩んだりしている時にはいまだに本校に来てもらって相談にも乗っています。その代わり、OGとして社会人講座や合格体験の座談会に出席してもらうなど、持ちつ持たれつの関係を作っています。

今は生徒たちが学ぶ価値を理解する機会があまりない、ということが課題と感じています。例えば私の担当する数学の時間に計算の手順を文章で書くよう指導することも。その過程で自らの考えを整理し、行動を客観視する。その習慣が課題克服のための「TO DOリスト」作成にもつながります。今の学びは将来のどんな場面に必要か、何を学べば自分の強みとなるのか、その辺りを意識させ、授業に散りばめているのです。それがひいては志望理由書やポートフォリオの作成、またプレゼンテーション力といった、いま入試制度改革で求められる力の涵養につながっていくと考えています。

また、高校の先生も自らのキャリアを振り返り、キャリアを語れるようにする、つまり社会に広く目を向けて、生徒のモデルになる意識も大切ではないでしょうか。

今後も生徒が社会と向き合いながら自分の強みを積み上げ、納得した進路先で自己実現できるよう、キャリアデザイン支援に努めていきたいと思います。

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