ティースタライフ

Teaching Staff Life…ベテラン教員から後輩に贈るメッセージ

#10

生徒を、起こすのではなく 
寝かさない授業を

浦和実業学園高等学校 
進路指導 主任
齋藤 良輔 先生
※部署名、役職名などは取材当時のものです
公開:

商業科と普通科、合わせて各学年700名と県下最大級の生徒数を擁する浦和実業学園高校。近年、難関校への進学実績を着実に伸ばしている。大半の生徒が進学する中で、中高一貫コースや特進選抜コースをはじめ、進路に応じたカリキュラム設定を細かく選択できるのが特徴だ。

旅先で世界の現実を目の当たりに

教員免許は取得したものの、大学卒業は就職氷河期の絶頂のころに当たり、卒業後は1年半かけてアジアからアフリカを巡る旅に出ました。反対する父には、戻ったら教員になると約束して。

帰国して埼玉県私立中学高等学校協会の採用希望者登録をして、最初は非常勤講師としてキャリアをスタートし、3年目から正規教諭として採用されました。

中学高校時代は、部活動はやらず、夏休みに家業の建設業を手伝ったりして、いろんな工事現場に出入りしていました。高校時代から警察官を志望する気持ちもあったので、大学では法律を学びました。教員免許は何となく取得したようなものです。旅に出る事情から、親との約束を果たすことになりました。

もともと歴史は好きで、それが世界を旅をする中でその経験を授業を通じて伝えたいという気持ちは強まっていきました。旅先では貧困や紛争の爪痕など、現代日本との違いを目の当たりにしました。その経験は、歴史を教える中に確実に生かされていると思います。でも、本校に採用されてすぐ受け持った授業は世界史でなく、日本史だったんですよ。

授業では、旅での知見も折に触れて話します。現地に行かないと得られない見聞は、むしろ授業よりもよく聞いてくれる気がします。もともと人前で話すようなタイプではありませんでしたが、教員になってみて、この道を極めたいという思いが芽生えてきましたね。

大規模校で
多様な生徒の進路に対応策

本校は県内きっての大規模校で、教員数も200名に上ります。生徒数が多いことで多様なスキルが必要になるのは、進路指導の面です。

普通科も商業科も大半の生徒が進学し、その中で所属するコースによって一般入試からAO、指定校推薦まで、志望が多岐に渡るため、広く深く、あらゆる受験手法に長けていることが求められます。それは生徒の多様さに触れて初めて実感できるものですね。

少子化の中での首都圏への一極集中など、進学環境が激変している中で、センター試験が廃止され、2020年度には大学入学共通テストが導入されます。各校の進路指導担当は情報収集に全力を挙げていると思います。本当に必要としている情報を生徒に届けることが、今ほど求められている時期はかつてないです。

進路指導に携わる中で私は自分なりに誇りにできる実績を積むことができたと思っていますが、進路指導ではときに進学実績を出すこと自体に偏重してしまうことがあります。難関校突破に引っ張っていくばかりでなく、生徒自身が本当に求めている進路は何か、ともに探ることも必要だと思います。親御さんと話し合いながら、子どものメンタルを知ることもおろそかにできません。

生徒と向き合ってスキルアップを

私が新規採用されたころと比べると、素直で大人しい生徒が増えたと感じます。これは若い先生についてもある意味で同様で、一方で暖簾に腕押しというか、無気力さを感じないわけではありません。

私自身は若手のころ、何に対してもトガっている印象を持たれました。生徒指導も厳しいタイプでしたし、教科に不熱心な先輩教員に対しては憤懣(ふんまん)を感じたりしていましたね。敵を作らないタイプではなくて、「あいつ、若いのに生意気だ」と言われることはしょっちゅうでした。若手教員たちで毎日のHRでやる英単語テストを作ったときには、「それは英語科の仕事だ」って言う先生方に反対されたりとか。

教員の仕事は次第に忙しくなっていきますが、その中心には生徒がいます。進路指導の中では、生徒が希望する進路に進んでいってくれること自体が原動力でもあります。生徒と向き合い、接することで私のスキルアップも図ることができました。

生徒は授業に全力で取り組まない先生の話を聞きません。世界史を勉強してきた私は、赴任して日本史を持ちました。私自身が学びなおす中で、授業ではわかりやすさをいちばんの目標にしました。

自分は正しいことをやっているのに、生徒に理解する力がないからついて来ないと思い込む先生がいます。生徒を寝かさない授業をしなさいと言いたいです。生徒を起こすのではなく。もし面白い授業ができないとしても、わかりやすい授業は自分の努力で必ずできますよ。

浦和実業学園高等学校 
進路指導 主任
齋藤 良輔 先生

[プロフィール]
大学卒業後、バックパッカーとして世界各地を巡る。2000年、浦和実業学園に社会科教員として採用。進路指導や国際教育部に携わり、現在は進路指導部主任とともに山岳部の顧問も務める。

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