ティースタライフ

Teaching Staff Life…ベテラン教員から後輩に贈るメッセージ

#11

自分の時間と教育のプロとして 
無償の愛を大切に

岩倉高等学校 
教頭
志賀 保美 先生
※部署名、役職名などは取材当時のものです
公開:

全国でも稀有な運輸科を持ち、明治時代から鉄道の学校として知られる岩倉高校。鉄道会社各社に毎年多くの卒業生を送り出している。2010年代には共学化と廃科を含む学科の精査という一大改革をやりきった。

プロ意識に基づく
発言と行動

一般企業に在籍した後に静岡県の高校に勤めて、最初は日本史を教えていましたが、在職しながら大学に戻って商業科の免許を取り直して、商業教科も指導するようになりました。その上で、今度は岩倉高校の教員募集を知って応募しました。本校の教壇に立ってまもなく30年になります。

社会人としてのスタートは一般企業で切ることになりました。もともと人と接するのが好きで、顧客対応などはいろいろ勉強になったと実感しています。しかし、学校で生徒と繋がる濃密さとは比較にならない。10年、20年経っても教え子が訪ねてくるという経験は、教員ならではだと思います。

小さいころから元気いっぱいで負けず嫌い、一方でなぜか周囲に目配りしてしまう子どもでした。小学校の学芸会で係のなり手がなくて、ひとりで何役も引き受けてしまったこともありました。高校に入ると日本史の授業が実に面白くて、こんな先生になれたらいいなあと思って、教職課程を履修しました。

教員は、学校を出てすぐ「先生」と呼ばれます。保護者からすると子どものような年齢でも先生。そこは勘違いしないようにしないといけないと思いました。生徒を指導するときはプロ意識をもって発言し行動する、それが生徒や保護者の安心感に繋がるんだと思います。

静岡の学校は1学年500人規模で、初年度から担任を持って、休みがちの生徒の家庭訪問や放課後の指導なども頻繁でした。

先輩教員には事前に相談というよりは、報告を兼ねた相談になります。当時はマニュアルがないまま自分で解決するというのが当り前でした。走りながら考えるスピード感は、最初の赴任校とその前の一般企業で身についたように思います。

若い先生は、マニュアルがあってもなお上司や同僚に確認してしまう方が多いと感じます。生徒一人ひとりに応じて変えていかなくてはいけないし、スピードが求められる現場もある中では、まず自分で判断してやってみるのは大事ですね。全てが成功するとは限りません。私自身も、教育的に叱らなければならない場面で感情で怒ってしまったことがあります。でも、間違ったら修正もできますから。

自信に繋げた
簿記検定全員受験

配属された商業科(2014年廃科)は、鉄道の学校の商業科ということもあり、やや沈滞ムードで、それを教員も半ば諦めている面がありました。生徒に自信を持ってもらいたいと始めたのが、簿記検定の受験です。

放課後の講習は半ば強制だったので猛反発もあったものの、頑張らせました。最初は低迷していた模試の得点でしたが、補習して点数が上向くと雰囲気が変わり初めて、クラスの8割が合格すると生徒たちの意識が本当に変わりました。資格が目標というよりは、自信を持たせる仕組みづくりだったと思っています。

運輸科を中心に毎年100名以上の卒業生が鉄道関係に就職しています。15歳の高校入学時に進路を鉄道と決めているのには驚かされますね。クラスでの切磋琢磨も盛んです。

やることは
学校に着くまでに整理

私が赴任したころは、いわゆる団塊の世代のボリュームゾーンが存在していたころで、若手は進んで聞きに行くという時代でした。質問すると「で、君はどう思う?」と必ず聞かれました。自分で組み立ててみて、それを先輩にぶつけると、先輩の知見から発したアドバイスを貰えましたが、さすがに役に立ちました。

教頭という立場では、管理業務も行います。出退勤や出張、募集業務から合否判断、みんなが相談しにくる窓口です。一方で、人と接するのが好きで就いた教職でもありますから、クラブの顧問も授業の担当も、現場を離れずに担当していますよ。

時代の要請もあり、自分の中でオフにする時間はしっかり持ってほしいと思います。ただし、学校に着くまでには、今日やるべきことと仕事上の心配事を整理してほしいと思います。

着いてからオンにすると、そこから考え始めてしまいます。試合が始まってからオンにする競技者はいません。朝一番に電話はかかってくるし、生徒たちは集まってきますから。そして学校にいる間はプロとしての無償の愛、見返りを求めない気持ちを、生徒に対して持ってほしいと思いますね。

岩倉高等学校 
教頭
志賀 保美 先生

[プロフィール]
明治大学商学部卒。繊維会社員、静岡県内の私立高校を経て岩倉高校に赴任。男女共学化と学科の精査などを教頭として担う。

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