研究室はオモシロイ

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第4回 Part.1

第4回 安価な生分解性プラスチックを畑のなかからつくり出す(1)
Part.1
微生物によって分解され自然に返る
生分解性プラスチック

東京農工大学大学院
工学教育府 応用化学専攻 国眼 孝雄研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
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私たちの身の回りにはプラスチック製品があふれている。家電、情報機器、文具事務用品、日用品、容器類などプラスチック製品に囲まれて生活しているといっても過言ではない。そのなかでも毎日のように、使っては捨てるというパターンを繰り返しているのがプラスチック容器類だ。現在はプラスチック容器類のリサイクル率が上がったとはいえ、分別されないままゴミとして捨てられ、最終処分場に埋められるものも多い。これでは、環境に負荷をかける一方だ。そのため、分解されて自然に返っていく生分解性プラスチックが注目を集めている。そこで今回は、生分解性プラスチックの研究に取り組んでいる東京農工大学の国眼孝雄先生の研究室を訪ね、お話をうかがった。(Part.1/全4回)

バイオマスを原料にすることで
カーボンニュートラルを実現

▲国眼 孝雄 教授

生分解性プラスチックという言葉自体は、新聞やテレビなどでもよく使われているが、実際はどのようなものなのか。まず、そこから教えていただくことにした。

「石油(石炭や天然ガスの場合もある)からつくる一般のプラスチックは、自然には分解されない、つまり腐らないのが長所の1つです。その反面、リサイクルされないでゴミとして捨てられた場合、いつまでも自然界に残ってしまいます。それに対して、生分解性プラスチックは微生物によって分解されます。したがって、生ゴミと一緒に土のなかに埋めても、やがては分解されて自然に返っていく。そういう意味では環境にやさしいプラスチックということができます」

この生分解性プラスチックには、微生物によって分解されることとは別に重要なポイントがあるという。それはバイオマス(生物資源)からつくることだ。

「生分解性ということだけなら、石油由来のプラスチックでも、そういう性質を持たせることは可能です。たとえば、我々が研究しているポリ乳酸(乳酸のポリマー。ポリマーは分子量の大きい高分子の有機化合物のこと)は石油からつくることもできます。ですから、たんに生分解性ということだけでなく、バイオマス由来であることが重要なのです。

我々は、イモの一種(後述)をバイオマスとして使っています。そのバイオマスはどのようにしてつくられるかというと、炭酸ガスと水があれば、葉緑体が光合成でつくってくれます。しかも、でんぷんというポリマーをつくってくれるのです。また、通常のプラスチックは、300~500気圧、500~1,000度というシビアな条件でつくりますが、植物は常温、常圧ででんぷんをつくり、おまけに酸素を出してくれます。

つまり、炭酸ガスを原料にしているので、生分解性プラスチックをつくっても炭酸ガスは出ない。これをカーボンニュートラルと呼んでいて、環境への負荷を軽減しながら社会を持続的に発展させるうえで重要な考え方になっているのです」

また、バイオマスには、石油に代わる原料としての期待もある。

「石油は、いまと同じ状態で生産され消費されれば、あと40年でなくなるといわれています。バイオマス由来のプラスチックが普及すれば、石油をセーブすることにもつながるのです」

《つづく》

●次回は「生分解性プラスチックの原料の研究について」です。

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