大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート
第5回 Part.3第5回
対象地域に継続的にかかわりながら人を中心に据えたまちづくりを研究(3)
Part.3
山間の集落を一戸ずつ訪問調査し
地域の将来を探る
教養学部 梶島 邦江研究室
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自分が生まれ育った地域、あるいは現在暮らしている地域には、どのような問題があり、どうすれば解決できるのか。そんなことを考える機会は意外に少ないかもしれない。とはいえ、それは行政や一部の専門家に任せておけばいいというものではなく、本来は私たち住民1人ひとりが考えなくてはならないことなのだろう。では、学問の立場からはどのようなアプローチがあり得るのだろうか?
今回は、地域が抱える問題やその解決策について実践的な研究を進めている埼玉大学教養学部・梶島邦江先生の研究室を訪ねて話をうかがってみた。(Part.3/全4回)
2006年度には場所を絞って、深く研究を進めることになった。対象地は、石間(いさま)川流域の石間地域。
「石間地域には5つの集落があり、そのうち2つの集落で調査を行いました。それぞれ30戸から35戸ぐらいの集落ですが、学生5人が全戸を訪ねて、現在の生活状況や農業の状況などをヒアリングしました。
どちらの集落もお年寄りばかりになってしまって、傾斜地にある畑は耕し手がいなくて困っています。周辺は山ですが、林業もほとんど成立していません。ただ、急傾斜地に高い石垣をつくり、その上に家を建てていて、非常におもしろい山地景観が形成されいるのです。
そうした景観の保全が2006年度の大きなテーマになりました。この景観をどうすれば保全していけるか、何とかうまく生かすことはできないかといったことを学生たちと議論してきました。そして、調査した成果も踏まえて近い将来、新しいタイプのエコミュージアムとして生かしていこう、というところまで話が進んできました」
特徴ある風景や民俗を生かす
エコミュージアム
住民が自分たちの地域を誇りに思いながら暮らしていける手立てはないか、多少なりとも経済的な効果が期待できるものはないか、といったことをみんなで考えた結果、浮かんできたのがエコミュージアムだという。どのようなものなのか気になるが、プロジェクトとして具体案が出ているわけではない。ただ、梶島先生は「これは学生と議論したものではなく私自身のイメージです」と前置きしたうえで、構想の一端を話してくださった。
「秩父には、石間を含めて3つの沢筋があり、それぞれに違う文化を形成しています。それは風景にも表れているし、民俗、祭りなどにも表れています。そこで、石間だけではなく3つの沢にわたる『沢ミュージアム』のようなものがおもしろいのではないかと考えています。3つの沢ミュージアムを秩父市街地のミュージアムが束ねるかたちで、それぞれの沢の特徴を生かしていくことができないだろうか、と考えているのです。
市街地のミュージアムとしては、財政難などで閉館されている博物館が候補になります。この博物館を何とか復活させて、そこを中核としながら沢ミュージアムをつくっていけば、かなりおもしろいものができるかもしれません」
5月の連休ごろには、現地での報告会も計画されていて、今後に向けて気運を高めていくことになりそうだ。
100年におよぶ埼玉県のサッカー熱は
埼玉大学の前身が火付け役
梶島先生の研究室では、サッカーの「Jリーグ研究」にも取り組んでいる。この研究は2005年度から始まったものだが、実は100年にもおよぶ歴史を踏まえたものでもある。
「いまから99年前、埼玉師範学校(埼玉大学の前身)の校長先生が生徒たちにサッカーを紹介し、熱心に教えるようになりました。そして、サッカーを経験した生徒たちが教師になって県下の学校に赴任し、そこでまたサッカーを教えていったのです。ですから私たちには、現在の埼玉県のサッカー熱は埼玉大学の前身が火付け役だという自負があるのです。
そういうこともあって、2004年度に大学院文化科学研究科が浦和博物館でサッカーの展覧会を開催し、2005年度には大学のギャラリーで展覧会を開催しました。来年は100周年になるので、大々的にやりたいと考えています。その展覧会を行う過程で、浦和レッドダイヤモンズ(レッズ)、大宮アルディージャ、県のサッカー協会の方たちとお付き合いが始まりました。そして、大学とクラブが一緒に何かできないか考えるようになり、いくつかの事業が動き始めたのです」
その事業の1つとして、2005年度から埼玉大学は「スポーツマネジメント講座」を開講することになった。これは、浦和レッズと大宮アルディージャのフロントの方たちが講師を務めるもので、学生だけでなく地域の人たちも聴講することができる。
《つづく》
●次回は最終回「Jリーグのサポーターの行動調査について」です。