研究室はオモシロイ

大学、専門学校や企業などの研究室を訪問し、研究テーマや実験の様子をレポート

第5回 Part.4

第5回 
対象地域に継続的にかかわりながら人を中心に据えたまちづくりを研究(4)

Part.4
Jリーグチームの観客誘致圏や
観戦者の行動を調査

埼玉大学
教養学部 梶島 邦江研究室
※組織名称、施策、役職名などは原稿作成時のものです
公開:
 更新:

自分が生まれ育った地域、あるいは現在暮らしている地域には、どのような問題があり、どうすれば解決できるのか。そんなことを考える機会は意外に少ないかもしれない。とはいえ、それは行政や一部の専門家に任せておけばいいというものではなく、本来は私たち住民1人ひとりが考えなくてはならないことなのだろう。では、学問の立場からはどのようなアプローチがあり得るのだろうか?
今回は、地域が抱える問題やその解決策について実践的な研究を進めている埼玉大学教養学部・梶島邦江先生の研究室を訪ねて話をうかがってみた。(Part.4/全4回)

2005年度から梶島先生の研究室で「Jリーグ」研究もスタートした。Jリーグクラブと地域との関係のあり方や、ゲームの開催が地域に与える影響などを研究するのが目的で、主に観客誘致圏と試合観戦後の行動を明らかにするためにアンケート調査を実施した。

2005年度の調査日は10月22日。埼玉スタジアムで行われた大宮アルディージャ(ホーム)対浦和レッズ戦の観戦者が調査対象となった。アンケートは、スタジアムゲート前で観戦者の属性なども含む調査票を配布し、後日郵送またはeメールで回収する方法を採った。では、その結果、どのようなことが分かったのだろうか?

「観客誘致圏については、全国から観戦者が来ていることが分かりました。遠くは沖縄県や岩手県からも来ていましたね。ただ、数のうえでは首都圏が圧倒的でした。なかでも埼玉県が約8割を占め、さらに絞れば浦和周辺や大宮周辺の方が多かったです。つまり、観戦者の中核になっているのは、さいたま市内に形成されたサポーターだということがきわめて明確に表れたのです」

サポーターにとってサッカー観戦は
日常の文化として定着

一方、試合観戦後の行動については、スタジアムを出てから家に帰るまでに、どこで何をしたかを調べたが、こちらも興味深いことが分かったという。

▲試合観戦後の行動
(埼玉大学教養学部梶島研究室「サッカー観戦者行動調査」より)

「非常に印象的だったのは、サポーターの方たちはサッカーのゲームを見るのがきわめて日常的な行動になっているということです。約4割の方が、どこにも立ち寄らず家に帰っています。これはとくに、さいたま市およびその周辺の方に目立っていました。そういう方たちにとってサッカー観戦は特別なことではなく、日常の1コマなんですね。これはすごいなと逆に思いました。サッカーが生活の文化になっているということです」

行動パターンを具体的に見ると、まっすぐ帰宅する人が41%、外食が30%、買い物が16%、外食と買い物が5%、その他が8%という結果になっている。

アンケートでは、何らかの活動をした人の支出額も調べている。その平均額は約2700円だった。研究室の試算では、このゲームによって合計約2000万円ぐらいが地域に投下されたことになる。

また、JR浦和駅西口にはレッズのサポーターが集まることで有名な居酒屋があるが、そこに立ち寄った人の多くは東京都内から来た観戦者だった。これについて梶島先生は「東京からわざわざゲームを見に来たので、余韻を楽しんで帰る、という方も多かったのではないでしょうか」と分析している。

昨年の調査は浦和レッズ優勝の日で
サポーターの歓喜も浮き彫りに

2006年度も、埼玉スタジアムで行われた浦和レッズ(ホーム)対大宮アルディージャのゲームで同様の調査を行った。調査日は12月2日。この日はJリーグの最終節で、レッズの優勝が決まった日だった。

実は、レッズの優勝はもう少し早く決まると思われていたため、クラブ側がこの日を調査日に設定したようだ。ところが、優勝争いは最終節までもつれ込んだ。そのため、梶島先生によると「サポーターの人たちも殺気立っているような雰囲気(笑)」のなかでアンケート調査を実施することになった。ただ、結果的には「千載一遇」(梶島先生)の機会になった。

「レッズの優勝が決まったあと、サポーターの人たちが狂乱状態で市内を駆けめぐっている様子が調査票のなかから浮かび上がってきて、彼らが本当にレッズを応援しているのだということがよく分かりました」

なお、2005年度の調査では、ゲームが終わってからの行動を調べたが、2006年度は朝起きてからスタジアムにくるまでの時間帯も加えている。2007年度もさらに新しい観点を加えて調査を行う予定だ。また、この調査結果を本にまとめる計画もある。

それぞれの地域の人や文化に触れながら
まちづくりを考えていきたい

このように多彩な研究に取り組んでいる梶島先生だが、最後に研究全体の今後の方向性についてうかがってみよう。

「やはり、まちづくりというものを、人を中心に考えていきたいですね。そして、人が人であるためには文化というものが非常に重要なので、文化を育てる環境をどうつくっていけるかも考えたいと思います。

それも、机上の議論じゃなくて、それぞれの場所ごとに、どんなおもしろい文化があるのか自分たちの目で確かめながら研究活動を進めていきたいですね」

梶島 邦江(かじしま くにえ)
日本女子大学家政学部住居学科卒業。ストックホルム大学国際学部大学院。日本女子大学大学院家政学研究科修士課程終了。早稲田大学大学院理工学研究科博士課程修了。聖徳大学短期大学部助教授を経て埼玉大学教養学部教授に就任。博士(工学)。

新着記事 New Articles